🐘被告国(Y) 二審答弁書
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令和3年(ネ)第1297号 損害賠償請求控訴事件
控訴人 (閲覧制限)
被控訴人 国
答弁書
令和3年6月24日
東京高等裁判所第14民事部ニ(ホ)B係 御中
被控訴人指定代理人
〒102-8225 東京都千代田区九段南一丁目1番15号
九段第2合同庁舎
東京法務局訟務部(送達場所 別紙のとおり)
部付 清平昌大
部付 本村行広
訴務官 服部文子
法務事務官 吉木智宏
〒100-8977 東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
法務省民事局
局付 倉重龍輔
局付 志田智之
局付 高橋あゆみ
民事法制管理官付法制第一係長 生部雅敏
民事法制管理官付法制第一係 山本勇治
第1 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 仮執行の宣言は相当でないが,仮に仮執行宣言を付する場合は,
(1)担保を条件とする仮執行免脱宣言
(2)その執行開始時期を判決が被控訴人に送達された後14日経過した時とすること
を求める。
第2 はじめに
被控訴人の事実上及び法律上の主張は,原審における口頭弁論のとおりである(なお,原審口頭弁論終結後に提出した一審被告第4準備書面を,控訴審において陳述する。)。
これに対し,控訴人は,令和3年4月5日付け控訴理由書において,原判決の判断内容に誤りがある旨主張するが,その内容は,原審における主張の繰り返しか,又は控訴人独自の見解を述べるものにすぎず,それらに理由がないことは,原審における被控訴人の主張及び原判決の判示から明らかである。
したがって,本件控訴は,理由がないものとして,速やかに棄却されるべきであるが,以下,控訴理由書における控訴人の主張に対し,必要と認める範囲で反論する。
なお,略語等は,本書面において新たに用いるもののほかは,原審における被控訴人の準備書面の例による。また,原審における被控訴人の準備書面については,「一審被告第1準備書面」等と表記する。
第3 控訴人の主張にいずれも理由がないこと
1 憲法13条違反の主張について
(1)親権が憲法上保障されている権利ではないこと,
控訴人は,親権が,憲法13条が保障する人格権や幸福追求権に含まれる基本的人権であることは明白であり,原判決が親権を基本的人権ではないと判示した点に合理性はない旨主張する(控訴理由書12ページ等)。
しかしながら,親権が親の「職分」や「社会的責務」であると理解されており,憲法上保障された人権とはいえないことは,被控訴人が一審被告第1準備書面5及び6ページ等で主張したとおりである。
この点,原判決も「親権は,あくまでも子のための利他的な権限であり,その行使をするか否かについての自由がない特殊な法的な地位であるといわざるを得ず,憲法が定める他の人権,とりわけいわゆる精神的自由権とは本質を異にするというべきである。また,親権を,その行使を受ける子の側から検討をしても,子は,親権の法的性質をどのように考えようとも,親による親権の行使に対する受け手の側にとどまらざるを得ず,憲法上はもちろん,民法上も,子が親に対し,具体的にいかなる権利を有するかも詳らかでないから,子において,原告が主張するような,父母の共同親権の下で養育される権利,ひいては成人するまで父母と同様に触れ合いながら精神的に成長する権利を有するものとは解されず,親権の特殊性についての上記判断を左右するものではない。そうすると,このような特質を有する親権が,憲法13条で保障されていると解することは甚だ困難である。」と正当に判示している(原判決24及び25ページ)。
なお,原判決は,「親である父又は母による子の養育は,子にとってはもちろん,親にとっても,子に対する単なる養育義務の反射的な効果ではなく,独自の意義を有すものということができ,そのような意味で,子が親から養育を受け,又ぱこれをすることについてそれぞれ人格的な利益を有すということができる」とも判示するが(原判決25ページ),上記の親権の性質に照らして,かかる判示が,親権が憲法上保障された権利であると判示したものと解することができないことは明らかである。
また,原判決が,「当該人格的な利益が損なわれる事態が生じるのは,離婚に伴って父又は母の一方が親権者に指定されることによるのではなく,むしろ,父と母との間,又は父若しくは母と子の間に共に養育をする,又は養育を受けるだけの良好な人間関係が維持されなくなることにより生じるものではないかと考えられる。」と判示するように(原判決25及び26ページ),父母の離婚後はそのどちらかを親権者とする本件規定が,憲法上の人権や人格的利益を侵害するものではないこともまた明らかである。
したがって,親権が,憲法13条が保障する人格権や幸福追求権に含まれる基本的人権であることを前提とする控訴人の主張はいずれも理由がないが,以下においては,念のため,必要と認める範囲で反論する。
(2)本件規定が離婚後に親権を失った親に扶養義務を課すことになるため,憲法13条に違反する旨の控訴人の主張に理由がないこと
控訴人は,本件規定が,憲法29条が財産権を保障しているにもかかわらず,離婚後に親権を失った親に扶養義務を課すことになる点で,離婚後の非親権者の基本的人権を合理的な理由なく制限するものであり,憲法13条に違反する旨主張する(控訴理由書23及び24ページ)。
控訴人の主張する憲法29条による財産権の保障と親権に係る憲法13条違反との関係は判然としないものの,親権の有無と扶養義務(財産的負担)の有無を関連付けるものであると解される。
しかしながら,そもそも親族間の扶養義務は,親権の有無とは関係なく,一定の身分関係に基づいて認められるものであり(民法877条),本件規定によって非親権者である親に子の扶養義務が課されるという関係にはないのであって,控訴人の上記主張はその前提を欠き,理由がない。
(3)本件規定が一律に離婚後単独親権とする点で,立法目的と手段との間に実質的関連性が認められない旨の控訴人の主張に理由がないこと
控訴人は,本件規定について,原判決が「離婚後の父母に任意の協力関係が望める場合があり得」ると判示していることなどを前提とすれば,親権の制限として,原則として離婚後も共同親権とし。例外として父母間に任意の協力関係が望めない場合には,親権喪失や親権停止の制度等を用いるというより制限的でない方法が存しているというべきであるから,一律に離婚後単独親権とする本件規定には,立法目的と手段との間に実質的関連性が認められず,憲法13条に違反する旨主張する(控訴理由書26ないし29ページ等)。
しかしながら,離婚後の父母に任意の協力関係が望める場合が原則であるとは言い難いところ,父母の任意の協力関係が望めない場合に,離婚時に父母の双方を親権者と定めると,父母の間で子に関する事項について適時に適切な合意をすることができず,子の利益が害されるおそれがあること,本件規定が,離婚時に父母の一方を親権者と定めることで,適時に適切な決定がされ,子の利益を保護することにつながるものであることは,一審被告第1準備書面4ページ,一審被告第2準備書面8ページ並びに一審被告第3準備書面7及び8ページ等で述べたとおりである。原判決も,「子の父母が離婚をするに至った場合には,通常,父母が別居し,また,当該父母の人間関係も必ずしも良好なものではない状況となることが想定され,別居後の父母が共同で親権を行使し,子の監護及び教育に関する事項を決することとしたときは,父母の間で適時に意思の疎通,的確な検討を踏まえた適切な合意の形成がされず,子の監護及び教育に関する事項についての適切な決定ができない結果,子の利益を損なうという事態が生じるという実際論は,離婚をするに至る夫婦の一般的な状況として,今日に至るもこれを是認することができる。」と判示し(原判決,30及び31ページ),離婚後の父母に任意の協力関係が望める場合が原則であるとは言い難いことを前提としている。
なお,離婚後の父母に任意の協力関係が望める場合があり得る点は,原判決も「父母に任意の協力関係が望める場合があり得ること,及び本件規定によって原告が主張するような一定の不都合が生じ得ることは,国会において,本件規定の立法目的が実際論にあると解されることを踏まえながら,親権制度の在り方を検討するに際し,検討されるべき事情の一つとなるべきものであるが,本件規定の内容が立法目的との間で合理的な関連性を有すということを直ちに揺るがすものではない。」と判示している(原判決34ページ)とおり,今後の親権制度の在り方を検討する際の一事情にすぎない。
したがって,控訴人の上記主張には理由がない。
(4)民法818条に基づく控訴人の主張に理由がないこと
ア 控訴人は,原判決が,「本件規定の趣旨は,離婚した父母が通常別居することとなり,また,父母の人間関係も必ずしも良好なものではない状況となるであろうという実際を前提とし,父母が離婚をして別居した場合であっても,子の監護及び教育に関わる事項について親権者が適時に適切な判断をすることを可能とすること,すなわち,子の利益のために実効的に親権を行使することができるように,その一方のみを親権者と指定することを定めるとともに,裁判所が後見的な立場から親権者として相対的な適格性を判断することを定める点にあると解される。」と判示したこと(原判決29及び30ページ)について,父母の婚姻中,親権の行使について両者の任意の協力が望めない場合は,民法818条3項ただし書により単独での親権行使が可能であるから,離婚後に父母間の任意の協力が望めない場合も同様の運用が可能であり,原判決に理由がないことは明白であるとか,離婚後共同親権制度を採用した上で,父母間の意見が一致しない場合の手続を法律で規定すればよく,そのような立法の不備を根拠として本件規定の合理性は肯定されない旨主張する(控訴理由書33ないし36ページ)。
イ しかしながら,民法818条3項ただし書が規定する「父母の一方が親権を行うことができないとき」には,事実上行使できない場合も含まれるが,例えば,事実上の離婚状態にある父母間で法定代理権の行使に関する意見が一致しないだけでは,同項ただし書にいう親権の行使不能の場合には当たらないとされるなど(東京高裁平成12年9月27日判決・東高民事報51巻1~12合併号11ページ参照),単に婚姻中の父母間で任意の協力が見込めず,親権を共同行使できないにすぎない場合には,同項ただし書の適用はないと解されることから,控訴人の主張には理由がない。
ウ また,被控訴人が一審被告第3準備書面8ページ等で主張したとおり,同居協力扶助義務を負う婚姻中の場合と,婚姻関係が破綻するなどして離婚した後の場合を同列に論じることは相当ではない。
すなわち,婚姻中の父母より離婚後の父母の方が互いの意見が一致しない可能性が高まることは明らかであるし,離婚後の夫婦は別居することが通常であることからすれば,婚姻中よりも連絡が取りづらい状況になることも明らかであるから,離婚後共同親権制度を導入した上で,親権者間の親権行使に関する意見が対立した場合の調整を図ることは,婚姻中の親権者間の調整以上に困難である。控訴人が,離婚後共同親権を導入した場合に離婚後の父母間で意見が一致しない場合の手続規定としてどのような規定を想定しているのかは不明であるが,例えば,離婚後の父母間で意見が一致しない場合の最終的解決を司法機関に委ねるとしても,子の進学について,一方の親が学校Aに進学させることを望み,他方の親が学校Bに進学させることを望んで意見が折り合わない場合を想定すると,そもそも裁判所が適切に判断可能かという点も含め,解決までに相応の時間を要することが予想され,結局,適時に適切な解決が図られず,子の利益を損なう結果になると考えられる。
エ このように,離婚後共同親権制度の導入によって様々な課題が生じると考えられることからしても,その導入の是非は,正に立法裁量に属する事項であって,本件規定が「憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白である」といえないことは明らかである。
(5)親子の面会交流に関する控訴人の主張に理由がないこと
控訴人は,子と別居親との面会交流がされていればいるほど子は健全な成長を遂げ,子の福祉は実現されるところ,本件規定が採用する離婚後単独親権制度が,子と別居親との面会交流を否定したり著しく制限したりしており,健全な子の成長や福祉を害しているのであるから,本件規定は,子の人格的利益を不合理に損なっている旨主張する(控訴理由書56ページ等)。
しかしながら,父母が離婚する場合は,父母が別居し,子は父母の一方と同居することとなることが通常であるから,子と同居しない側の親は,離婚前に比べて子と接触する機会が減少することは避けられず,このことは,離婚後に父母の一方が親権者として定められる場合も父母の双方が定められる場合も変わりはないことから,親権の帰属と面会交流の制限とが無関係であることは,被控訴人が一審被告第1準備書面5ページ等で主張したとおりであって,控訴人の上記主張は失当である。
2 憲法14条1項及び24条2項違反の主張について
(1)本件規定が合理性を有しており,憲法14条1項及び24条2項に反するものではないこと,
控訴人は,憲法14条1項が不合理な差別的取扱いを禁止し,憲法24条2項が離婚や家族についての立法における平等を求めているところ,本件規定は,離婚に伴い一方の親から親権を剥奪し,また子からすると親の離婚という自らが選び,正せない事柄を理由に不利益を及ぼす規定であるから,合理的な理由のない区別であって,憲法14条1項や24条2項に違反する旨主張する(控訴理由書69ないし73及び111ないし113ページ等)。
しかしながら,本件規定は子の親権者を父母のいずれにするかについて父母の間において別異の取扱いをするものではないこと,憲法14条1項は裁判の結果が裁判の当事者間で形式的に平等になることまで保障するものではない上,裁判上の離婚の結果として父と母との間で親権の帰属及びその行使について区別されることを踏まえたとしても,本件規定が合理性を有し,憲法14条1項及び24条2項に違反しないことについては,被控訴人が一審被告第1準備書面4,6及び7ページ等で既に主張したとおりである。
この点,原判決は,本件規定の立法目的について,「適格性を有する親権者が,実効的に親権を行使することにより,一般的な観点からする子の利益の最大化を図る」ことにあり,合理性が認められるとし(原判決30ページ),また,その目的と本件規定による区別との間に合理的な関連性が認められるか否かについても,「子の父母が離婚をするに至った場合には」,「別居後の父母が共同で親権を行使し,子の監護及び教育に関する事項を決することとしたときは,父母の間で適時に意思の疎通,的確な検討を踏まえた適切な合意の形成がされず,子の監護及び教育に関する事項についての適切な決定ができない結果,子の利益を損なうという事態が生じるという実際論は,離婚をするに至る夫婦の一般的な状況として,今日に至るもこれを是認することができる。」とした上で,「このような事態を回避するため,父母のうち相対的に適格性がある者を司法機関である裁判所において子の利益の観点から判断し,親権者に指定するという本件規定の内容は,実効的な親権の行使による子の利益の確保という立法目的との関係で合理的な関連性を有すと認められる。」と判示して,本件規定は憲法14条に違反することが明白であるとはいえないと結論付けている(原判決30,31及び38ページ)。
また,原判決は,上記のような「本件規定の内容及びその趣旨」等によれば,「本件規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるとは認められない」として,本件規定が憲法24条2項に違反していることが明白であるとはいえないと判示している(原判決38及び39ページ)。
(2)本件規定が離婚後に親権を失った親に扶養義務を課すことになるため,憲法14条1項や24条2項に違反する旨の控訴人の主張に理由がないこと
控訴人は,本件規定が,憲法29条が財産権を保障しているにもかかわらず,離婚後に親権を失った親に扶養義務を課すことになる点で,離婚後の非親権者の基本的人権を合理的な理由なく制限するものであり,憲法14条1項や24条2項に違反する旨主張する(控訴理由書66ページ等)。
控訴人の主張は,親権の有無と扶養義務(財産的負担)の有無を関連付けるものであると解されるどころ,その前提を欠くことについては,前記1(2)のとおりであって,理由がない。
(3)新聞記事(甲第55号証)を根拠とする控訴人の主張に理由がないこと
ア 控訴人は,有識者の研究会において,子には養育を受ける権利があり,「親権」を別の用語に置き換えるよう提案が行われた旨の新聞記事(甲第55号証)を根拠として,「子には養育を受ける権利がある」ところ,本件規定は,子が自らで選び正せない両親の離婚という事柄を理由に,子を養育する立場にある者を2人から1人に減らすという不利益を子に与える点において,憲法14条1項や24条2項に違反する旨主張する(控訴理由書66及び67ページ等)。
イ 控訴人が指摘する甲第55号証は,公益社団法人商事法務研究会主催の「家族法研究会」の報告書に関する新聞記事であるが,同報告書では,「親権の性質等について(中略)親が子について『負っているもの』という要素が中心であることについて異論はなかった」ところ,「『親権』との用語に代わり得るものとして,『義務』という語を用いることも検討されたが(『親義務』等),親が子に対して負っている職分は,民法における『義務』とは性質を異にするものであるとして,これに賛同する意見は見られなかった。」と記載されており,「権利」と対置される「義務」という用語への転換が否定されている(乙第11号証52ページ)のであって,家族法研究会において,甲第55号証が指摘するような,子には「養育を受ける権利」があるから「親権」を別の用語に置き換えるよう提案を行ったという事実はうかがわれず,控訴人の主張は前提を欠く。
かえって,同報告書では,親権の法的性質について,「『親権』は,その名称のみからすれば純粋な親の権利であるようにも思われるが,その法的性質については,権利であると同時に義務であるとする見解や,権利性はなく純粋な義務であるとする見解等がある。また,『親権とは義務である』とされる場合にも,親権者が誰に対して義務を負っているのかという点については,社会又は国家に対して負う公的な義務であるという見解,子に対する私法上の義務であるという見解,それらの両方の性質を有する義務であるという見解等があり,親権の性質については,定まった見解がない状況である。」と記載されており(乙第11号証45ページ),被控訴人の主張に沿う内容が記載されている。
ウ この点をおくとしても,控訴人は,親権者である父母が離婚した場合,本件規定により,子の親権者が2人から1人になることが子にとって不利益であると主張するが,前記1(3)のとおり,離婚する場合に父母双方を親権者と定めるとすると,親権者が決定すべきこととされている事項について,父母の間で適時に適切な合意を形成することができず,子自身の利益が害されるおそれがあることから,本件規定は,裁判上の離婚をする父母について,裁判所が後見的立場から親権者としての適格性を吟味し,その一方を親権者と定めることとして,子の利益の保護を図っているものであって(なお,親権者が減ったとしても,扶養義務者が減るものではなく,扶養義務の関係で子に不利益が生じるものではないことは,前記1(2)のとおりである。),十分な合理性を有するものである。この点,原判決も,離婚する場合に父母双方を親権者と定めると,離婚をした父母が子の養育のために一定の範囲で人間関係を維持したり,構築し直したりすることができない場合には,「他方親からの同意が適時に得られないことにより親権の適時の行使が不可能となったり,同意をしないことにより親権の行使がいわば拒否権として作用するといった事態さえ招来しかねず,結局,子の利益を損なう結果をもたらすものといわざるを得ない」と的確に判示しているところである(原判決31及び32ページ),
したがって,控訴人の上記主張は失当である,
(4)本件規定が一律に離婚後単独親権とする点で,立法目的と手段との問に実質的関連性が認められない旨の控訴人の主張に理由がないこと
控訴人は,原則として離婚後も共同親権とすべきであり,例外として父母間に任意の協力関係が望めない場合には,親権喪失や親権停止等のより制限的でない方法が存しているのであるから,一律に離婚後単独親権とする本件規定には,立法目的と手段との間に実質的関連性が認められず,合理的な理由のない区別として,憲法14条1項及び24条2項に違反する旨主張する(控訴理由書68ないし70ページ等),
しかしながら,このような控訴人の主張に理由がないことは,前記1(3)及び前記(1)のとおりである。
(5)離婚により親権を失った親は,親権を用いて子を救済する手段そのものを失う可能性があり,子の福祉を害する旨の控訴人の主張に理由がないこと
控訴人は,原判決が「親権を失った父母の一方が,面会交流等を通じて実子を見守る中で,実子の利益のために必要がある場合に親権者の変更を申し立てて自らが親権者となることもできるから,本件規定によって離婚後の親による実子の保護が不可能になっているものではない」と判示したこと(原判決36ページ)について,離婚後に親権者となった者が再婚し,子がその再婚相手と養子縁組をして当該実親と養親の共同親権に服する場合,民法819条6項に基づく親権者の変更をすることはできないのであるから(最高裁平成26年4月14日第一小法廷決定・民集68巻4号279ページ),原判決の上記判示は,その前提が最高裁決定と適合しておらず,離婚により親権を失った親は,親権を用いて子を救済する手段そのものを失う可能性があり,それが子の福祉を害することは明白であるから,本件規定は合理的な理由のない区別として憲法14条1項に違反すると主張する(控訴理由書91及び92ページ)。
しかしながら,原判決の上記判示は,いわゆる連れ子養子の場合を念頭においたものではなく,広く一般論について言及したにすぎないと解されるから,上記最高裁決定に適合していないとはいえないことは明らかである。その点をおくとしても,子が実親の一方及び養親の共同親権に服している場合において,親権者による親権の行使が不適切なものであるなど子の保護の観点から何らかの措置をとる必要がある場合は,親権喪失の審判や児童福祉法上の措置等を通じて子の保護を図ることが可能であり(谷村武則・最高裁判所判例解説民事篇平成26年度168ページ),むしろ,原判決が判示するとおり,「原告が主張するような事態は,離婚をした父母の双方を親権者とすることにより果たしてどこまで実効的な解決が可能であるかについて疑問もないではない」というべきである(原判決36ページ)。
以上のとおり,控訴人の上記主張には理由がない。
第4 結語
以上のとおり,控訴人の主張にはいずれも理由がなく,控訴人の請求を棄却した原判決は正当である。したがって,本件控訴は理由がないから,速やかに棄却されるべきである。
以上