平成31年(ワ)第7514号損害賠償請求事件
原告 (閲覧制限)
被告 国
第4準備書面
令和3年1月27日
東京地方裁判所民事第49部乙B係御中
被告指定代理人 清平昌大
本村行広
服部文子
大野史絵
倉重龍輔
志田智之
高橋あゆみ
三島大介
山本勇治
被告は,本準備書面において,被告の主張を補充するとともに,令和2年9月17日付け準備書面(5)(以下「原告準備書面(5)」という。)に対して必要と認める範囲で反論する。
なお,略語等は,本書面で新たに用いるもののほか,従前の例による。
第1 本件規定が違憲ではないと判示した裁判例が存在すること
東京高等裁判所平成30年9月27日判決(D1-Law判例ID28265275)は,別訴控訴人と別訴被控訴人の離婚を認め,両名の間の子2名の親権を別訴被控訴人とした原判决に対し,別訴控訴人が親権者指定に関する部分等を不服として控訴し,別訴被控訴人も附帯控訴した事案において,別訴控訴人が「仮に,控訴人が単独親権者とされないのであれば,裁判離婚において親の一方のみを親権者とし,もう一方の親の親権を失わせる民法819条2項は,法の下の平等を定めた憲法14条1項及び家族生活における両性の平等等について定めた憲法24条2項に違反し無効であるから,被控訴人及び控訴人の双方を共同親権者とすべきである」と主張したことに対し,「控訴人は当審において,ドイツの例を挙げるなどして,裁判離婚の場合に単独親権となることを規定する民法819条2項は,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反すると主張する。しかし,親権については,子の福祉が考慮されるべきであるから,単純に共同親権ではないという理由で上記憲法の各規定に違反するとはいえない。控訴人の上記主張は採用できない。」と判示するなどし,別訴控訴人の控訴及び別訴被控訴人の附帯控訴を棄却した(上告棄却・上告不受理決定により確定。最高裁判所平成31年2月26日第三小法廷決定・D1-Law判例ID28270837)。
上記裁判例は,本件規定が違憲ではないことについて正しく判断するものであり,正当である。
第2 原告準備書面(5)に対する反論
1 片親疎外等に関する主張について
(1)原告の主張
原告は,甲第47号証Xii及びXiiiべージの「両親の別居をきっかけに,子どもが良好な関係を構築していた別居親に対し強い拒否反応を示し,別居親への見方が極端な見方に激変する子どもの状態を片親疎外(Parental Alienation)という(中略)日本では離婚後の単独親権制度をとっているが,クルック(Kruk,2018)は,片親疎外は親権が一人の親にしか与えられない法制度のもとで生じやすいことを指摘しており,日本では片親疎外のリスクが高いことが予測される」との記載を引用する(原告準備書面(5)9及び11ペ一ジ)とともに,甲第48号証3ページ以下の「離婚後の単独親権制度の結果として,今,種々の深刻な問題が生じてきています(中略)こうした状況を回避していくためにも,ひとりの親のみを無理やり親とする現在の単独親権制度を見直し,離婚後も原則として,両親が子どもの養育に関わり続けることを原則とする方向に法改正していく必要があります」との記載を引用する(同準備書面(5)12及び13ページ)などした上で,「これらの心理学における研究と調査により,①子を他方親の同意なく連れ去り,②子を他方親と会わせないようにする,という現在の民法819条が採用している離婚後単独親権制度が原因で生じている事態が,連れさられる子(他方親と引き離される子)の心理面に重大な悪影響を与えていることは明白である。」旨主張する(同準備書面(5)4ないし19ページ)。
(2)被告の反論
しかしながら,そもそも原告の主張によっても,「片親疎外」とは「両親の別居をきっかけに,子どもが良好な関係を構築していた別居親に対して強い拒否反応を示し,別居親への見方が極端な見方に激変する子どもの状態」を指すものと思われるところ,離婚に伴って両親が別居すること及び子が両親のいずれかとのみ同居することになることは,離婚後共同親権制度を採用するか否かによって変わるものではないから,離婚後共同親権制度の採否と「片親疎外」の関連は明確ではない。
また,現行民法下においても,離婚後も未成年の子を有する父母は,親たる直系血族として,その子に対し扶義義務を負い(民法877条1項),親権を行う親と親権を行わない親の子に対する扶義義務は,共に等しく生活保持の義務(子に対し父母と同等程度の生活水準を維持させる義務)を負うというものである(新版注釈民法(22)親族(2)149ベージ)。
そして,現行の民法766条においても,父母は離婚後も子の養育について責任を負い,養育費の支払や,面会交流等について必要な協力をすることが当然の前提とされている。
以上のとおり,親権者でない親も子に対する法的義務や責任を負うものとされている。
そして,民法766条1項は,平成23年に「父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者,父又は母と子との面会及びその他の交流,子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と改正されたところ(なお,同項は,771条によって裁判上の離婚にも準用されている。),平成23年改正の趣旨としては,「大人の問題と子の問題を切り離して,子の利益や子の福祉の観点から面会交流や養育費の問題について親の共同の養育責任としての明確な法的根拠を与え,合意形成を促進しようとすることだと言ってよい」(新注釈民法(17)親族(1)327ページ)とされている。
以上のことからすれば,現行民法においても,「離婚後も原則として,両親が子どもの養育に関わり続けることを原則とする方向」ではないとはいえない。
さらにいえば,離婚後共同親権制度を定めた国においても,「①子を他方親の同意なく連れ去り,②子を他方親と会わせないようにする」という事態が生じていると思われることは,すでに被告第3準備書面4ページで述べたとおりである。
結局,原告の上記(1)の主張は,離婚の際の子との面会交流に関する裁判所の判断に不満を述べるものと思われ,親権の有無とは無関係であって,理由がない。
2 「ひとり親」に関する原告の主張について
(1)原告の主張
原告は,「両親が離婚しても親は2人であるにも拘わらず,社会が『ひとり親』と呼ぶのは,民法819条が離婚後単独親権制度を採用しているからである。」旨主張し,それを前提として,「ひとり親」の子であるとして子が差別を受けていると主張する。
(2)被告の反論
しかしながら,仮に離婚した家庭の子が「ひとり親」の子と呼ばれているとしても,その原因は,父母の離婚後,両親が別居してそのどちらかに引き取られて生活することが通常であり,同居の親が一人しかいないことを指しているとも思われるのであって,原告の主張はその前提を欠くものである。
そして,原告の主張によっても,その差別とされる具体的な内容は不明であって,結局,原告の主張には理由がない。
第3 結語
以上のとおり,原告の主張には理由がないから,本件請求は速やかに棄却されるべきである。
以上