🐘被告国(Y) 一審答弁書

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平成31年(ワ)第7514号 損害賠償請求事件
原告(閲覧制限)
被告 国

答弁書


令元年6月19日


東京地方裁判所民事第49部乙B係 御中

被告指定代理人
〒102-8225 東京都千代田区九段南一丁目1番15号
九段第2合同庁舎
東京法務局訟務部(送達場所 大野宛て)
(電話03-5213-1293)
(FAX03-3515-7308)
部付 今井志津
上席訟務官 松田朋子
訟務官 湯嶺奈々子
法務事務官 大野史絵
〒100-8977 東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
法務省民事局
局付 倉重龍輔
局付 大嶋真理子
民事法制管理官付法制第一係長 陶山敦司
民事法制管理官付法制第一係主任 佐藤博行

第1 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
3 仮執行の宣言は相当でないが,仮に仮執行宣言を付する場合は,
(1) 担保を条件とする仮執行免脱宣言
(2) その執行開始時を判決が被告に送達された後14日経過した時とすること
との判決を求める。
第2 「請求の原因」に対する認否
1 「1 当事者について」について
 不知。
2 「2 民法819条2項について」について
 認める。
3 「3 民法819条2項は,裁判離婚の一方当事者の基本的人権・人格的利益・利益に必要以上の制約を課すものであり,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反し,違憲であること」について
(1) 「(1) 憲法14条1項違反及び憲法24条2項違反について」について
ア アについて
 争う。
イ イについて
 最高裁判所昭和51年5月21日大法廷判決(昭和43年(ア) 第1614号,刑集30巻5号615ページ)の判示内容は認めるが,その余は争う。なお,訴状の記載によっても,「親の未成年者子に対する親権は,憲法が保障する基本的人権である」という原告の主張と同判決との関連性には触れられておらず,上記主張の根拠は明らかでない。
ウ ウについて
 第1文は認め,第2文は争う。
 なお,訴状の記載によっても,民法820条は親の未成年者子に対する親権が基本的人権であることを前提とした規定であるとする根拠は明らかでない。
エ エについて
 最高裁判所平成20年6月4日大法廷判決(平成18年(行ツ)第135号,民集62巻6号1367ページ)が,日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別と憲法14条1項との関係について,「立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,同項に違反するものと解されることになる。」と判示していること,最高裁判所平成25年9月4日大法廷決定(平成24年(ク)第984,985号,民集67巻6号1320ページ。以下「平成25年非嫡出子相続分違憲決定」という。)が,嫡出子と非嫡出子との間で生ずる法定相続分に関する区別について,「立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には,当該区別は,憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。」と判示していること,最高裁判所平成27年12月16日大法廷判決(平成25年(オ) 第1079号,民集69巻8号2427ページ。以下「平27年再婚禁止期間違憲判決」という。)が,女性につき前婚の解消又は取消しの日から6か月の再婚禁止期間を定めた規定について,「これによって,再婚をする際の要件に関し男性と女性とを区別しているから,このような区別をすることが事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものと認められない場合には,本件規定は憲法14条1項に違反することになると解するのが相当である。」と判示していることは認める。

オ オ及びカについて
 いずれも争う。
 民法819条2項は,「裁判上の離婚の場合には,裁判所は,父母の一方を親権者と定める。」と規定しており,裁判所が親権者を定めるにつき,父親と母親との間において,取扱いに差を設けていない。また,同項が「裁判離婚において親の一方のみを親権者として定め,もう一方の親の未成年者子に対する親権を全て失わせる」と原告が主張する趣旨は明らかでないが,裁判上の離婚において親権者と定められなかった親であっても,親権者変更の申立て(民法819条6項)をすることによって,親権を再度取得する可能性は有している。
(2) 「(2) 憲法24条2項違反について」について
ア アについて
 (ア) はおおむね認める。ただし,引用部分3行目の「第一時的に」は「第一次的に」,4行目の「委ねられる」は「委ねる」の誤記と思われる。 
 (イ) のうち,最高裁判所平成27年12月16日大法廷判決(平成26年(オ) 第1023号,民集69巻8号2586ページ)の判示内容は認め,その余は争う。
イ イについて
 神戸地方裁判所平成28年(ワ)第1653号事件の判決の判示内容は認め,その余は争う。
 なお,同判決の言渡日は,正しくは平成29年11月29日である。
ウ ウについて
 (ア) は認める。
 (イ) 及び(ウ) は争う。
(3) 「(3) 」について
 民法819条2項が,裁判上の離婚の場合につき,裁判所が父母のいずれか一方を親権者として定める旨規定していることは認め,その余は争う。
(4) 「(4) 」について
ア アについて
 第1段落は認める。
 第2段落は争う。原告が「民法819条2項は,裁判離婚において,一方の親の未成年者子に対する親権を,全面的に失わせている」と主張する趣旨は明らかでないが,前記(1) オのとおり,裁判上の離婚において親権者と定められなかった親であっても,親権者変更の申立て(民法819条6項)をすることによって,親権を再度取得する可能性は有している。
イ イについて
 衆議院及び参議院における「民法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議」の各引用内容は認め,その余は争う。
 これらの決議は,親権制度について,「離婚後の共同親権・共同監護の可能性を含め,その在り方全般について検討すること」,「離婚後の共同親権・共同監護の可能性など,多様な家族像を見据えた制度全般にわたる検討を進めていくこと」と述べているが,民法819条2項に合理性がないことを述べたり示唆したりするものではない。
(5) 「(5) 」について
 争う。
 正確に引用すると,最高裁判所平成7年12月5日第三小法延判決(平成4年(オ) 第255号,集民177号243ページ)は,「民法七三三条の元来の立法趣旨が,父性の推定の重複を回避し,父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにある」と判示し,また,平成27年再婚禁止期間違憲判決は,女性の再婚禁止期間について定める民法733条1項の立法目的は,「女性の再婚後に生まれた子につき父性の推定の重複を回避し,もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解するのが相当であり(最高裁平成4年(オ) 第255号同7年12月5日第三小法廷判決・裁判集民事177号243頁(中略)参照),父子関係が早期に明確となることの重要性に鑑みると,このような立法目的には合理性を認めることができる。」と判示する。
 原告は,平成27年再婚禁止期間違憲判決は,「『もって』という言葉を入れることで,(中略)親や家族の不都合いう(ママ)面を考慮に入れて女性の再婚禁止期間を長くすることは許されない,と判示した」,同判決は「『親子法は未成年者子の福祉や未成年者子の保護のためにあるのであり,親の不都合を防止するための制度ではない』ということを確認したことになる」などと解釈しているようであるが,上記のとおり,平成27年再婚禁止期間違憲判決の上記判示において,上記最高裁平成7年判決が引用されており,両判決が民法733条1項の立法目的について異なる見解に立つものとは解されないことや,「もって」との文言の語意からしても,これが挿入されることにより,その前後の関係が必ずしも変わるものではないことからすると,上記のような原告の解釈は不合理である。「『もって』との文言は,平成7年判決(引用者注:上記最高裁平成7年判決)においては明示されていなかったが,父性の推定の重複を回避するということは,これによって父子関係を早期に定める父性の推定の仕組みを実効あらしめ,紛争の発生を未然に防止することにつながるという趣旨を敷衍した文言と解」(最高裁判所判例解説民事篇平成27年度1473ページ)するのが相当である。
(6) 「(6) 」について
 平成27年再婚禁止期間違憲判決の判示内容はおおむね認める。ただし,引用部分1行目の「序々に」は「徐々に」の誤記と思われる。
 その余は不知ないし争う。
(7) 「(7) 」について
 市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)23条4項,26条及び憲法98条2項に原告の引用する規定があること,甲第4号証の判決に原告の引用する記載があることは認め,その余は,民法819条2項が,自由権規約23条4項及び26条並びに憲法98条2項,14条1項及び24条2項に反し違憲であるとの趣旨の主張と解した上で争う。
 なお,原告の引用する甲第4号証の判決は,原告の引用する判示部分に続けて,「しかしながら,原告らが指摘する条約・勧告の内容については,それ自体,直接に本件各規定の不合理性を指摘するものではない。そして,各国における婚姻や家族の在り方は異なり,これらに関する制度の内容も多様なものが想定されるのであって,諸外国における立法の内容が直ちに我が国における法制度の合理性を否定することにはならない。」と判示している。
(8) 「(8) 」について
 日本が平成6年に児童の権利に関する条約(以下「児童の権利条約」という。)を批准したこと,児童の権利条約9条1項,同条3項,18条1項及び憲法98条2項に原告の引用する規定があることは認め,その余は,民法819条2項が,児童の権利条約9条1項,同条3項及び18条1項並びに憲法98条2項,14条1項及び24条2項に反し違憲であるとの趣旨の主張と解した上で争う。
 なお,児童の権利条約9条1項は。原告の引用部分に続けて,「ただし,権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は,この限りでない。このような決定は,父母が児童を虐待し若しくは放置する場合又は父母が別居しており児童の居住地を決定しなければならない場合のような特定の場合において必要となることがある。」と規定している。
(9) 「(9) 」について
 日本が平成26年に国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(以下「ハーグ条約」という。)を受諾したこと,憲法98条2項に原告の引用する規定があることは認め,その余は,民法819条2項が,ハーグ条約並びに憲法98条2項,14条1項及び24条2項に反し違憲であるとの趣旨の主張と解した上で争う。
(10) 「(10)」について
 争う。
 仮に離婚後の共同親権制度を導入しても,子の監護者を父母のいずれにするかは引き続き争われ得るのであり,離婚裁判の長期化を防ぐことができるか否かは明らかでない。
(11) 「(11)」について
 不知ないし争う。
(12) 「(12)」について
 甲第10号証におおむね原告が引用する記載があること,平成30年7月15日付けの読売新聞(甲第11号証)において,原告の引用する内容の報道がされたことは認め,その余は不知ないし争う。
 原告は,甲第10号証を根拠として,児童虐待が父母の離婚後に単独親権者となった側の親又はその配偶者からされる方が両親からされる場合よりも多いと主張するが,同号証は,児童虐待の原因について分析を加えているものの,その原因として,離婚後単独親権制度を挙げているわけではなく,親権の帰属との関係について論じているものでもない。
(13) 「(13)」について
 平成30年7月15日付けの読売新聞(甲第11号証)において,原告の引用する内容の報道がされたこと,民法766条1項及び同法820条の改正により「子の利益のため」と明記されたことは認めるが,その余は争う。
 法務省が,親権制度について,外国の制度や実情の調査をしている事実はあるが,現時点において,その見直しに関して具体的な検討をしておらず,親権制度を見直す民法改正ついて法制審議会に諮問する具体的な予定もない。また,政府が「共同親権が原則であり,単独親権が例外の制度である」という方向で,民法改正を検討している事実はない。
(14) 「(14)」について
 平成31年2月17日付けの日本経済新聞電子版(甲第12号証)において,原告の引用する内容の報道がされたことは認め,その余は争う。
 前記(13)のとおり,法務省が,現時点おいて,離婚後の選択的共同親権制度の導入について具体的な検討を始めたという事実はない。
(15) 「(15)」について
 平成31年2月25日付け(訴状の「平成31年2月26日付け」は誤記と思われる。)の日本経済新聞電子版(甲第13号証)において,原告の引用する内容の報道がされたこと,平成31年2月25日の衆議院予算委員会において,安倍晋三内閣総理大臣が,離婚後共同親権制度の導入について,「慎重に検討する必要がある」とした上で,「議論の状況等も踏まえながら,民法を所管する法務省において引き続き検討させてまいります」と述べたことは認め(乙第1号証),その余は争う。
(16) 「(16)」について
ア アについて
 争う。
 最高裁判所昭和37年11月28日大法廷判決(昭和30年(ア) 第995号,刑集16巻11号1577ページ)は本件と明らかに事案が異なるものであり,原告の主張を裏付けるものではない。
イ イについて
 争う。
 なお,訴状の記載によっても,第1段落で言及されている未成年の子の「両親の共同親権の下で養育される権利」が保障されているとの原告の主張の根拠は明らかにされておらず,同主張と第2段落で言及されている「未成年者子の幸福追求権や人格権」との関係も不明である。
ウ ウについて
 児童の権利条約9条1項,同条3項,18条1項及び憲法98条2項に原告の引用する規定があることは認め,その余は,民法819条2項が,児童の権利条約9条1項,同条3項及び18条1項並びに憲法98条2項,14条1項及び24条2項に反し違憲であるとの趣旨の主張と解した上で争う。
エ エについて
 争う。
 なお,平成25年非嫡出子相続分違憲決定は,民法900条4号ただし書(当時)の規定を巡る様々な事情を指摘した上で,「法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる」と判示しているが,この判示部分は,「父母が婚姻関係になかったこと」が「子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄」であるという説明をしているにすぎないのであって,「子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄」による取扱いの差異を許さない旨の一般的な説示をしているものではないし,また,親の不利益(原告の主張によれば「親権を全面に奪い」,「保護権の行使を否定し」)について説示したものではない。さらに,父母の離婚により,その一方が子の親権者に指定されても,他の親が子と面会交流をすることは何ら妨げられないのであるから,離婚後単独親権制度は,子の「親と触れあいながら成長する機会を否定」しているものでもない。
4 「4 民法819条2項についての国会(国会議員)の立法不作為が国家賠償法上違法であること(本件違法行為)」について
(1) (1) 及び(2) について
 おおむね認める。ただし,(2) の引用部1行目の「憲法上保障され又は保障されている」は,「憲法上保障され又は保護されている」の誤記と思われる。
(2) (3) (「上の3項」で始まる項)及び(3) (「国会(国会議員」で始まる項)について
 争う。
5 「5 原告の損害」について
 争う。
 なお,原告が離婚によって長男及び二男の親権を失ったことにより,具体的にどのような事項の決定に関わることができず,その事項がどのような結論となり,そのことによって原告が具体的にどのような精神的苦痛を被ったのかは原告の主張によっても明らかにされていない。
6 「6 結論」について
 争う。
第3 被告の主張
 追って準備書面により明らかにする。

以上