🐶原告(X) 上告理由書(要旨)
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令和3年( )第 号 損害賠償請求上告事件
上告人 (閲覧制限)
被上告人 国
令和3年 月 日
上 告 理 由 書(要旨)
最 高 裁 判 所 御中
上告人訴訟代理人弁護士 作花知志
目 次
第1 原判決が,憲法13条,憲法14条1項,憲法24条2項に違反することについて 3頁
第2 原判決に最高裁判所の判例と相反する判断があることについて 15頁
第1 原判決が,憲法13条,憲法14条1項,憲法24条2項に違反することについて
1 憲法13条違反について
親権が,親子という関係から当然に発生する自然権であり基本的人権であることは明白である。
そもそも,子の成長と養育に関わる親の子に対する親権は,親が子との自然的関係に基づいて子に対して行う養育,監護の作用の一環としてあらわれるものであり,人権の普遍性等に基づく存在である。そして親の子に対する親権は,これを希望する者にとって幸福の源泉となり得ることなどに鑑みると,人格的生存の根源に関わるものであり,幸福追求権を保障する憲法13条の法意に照らし,人格権や幸福追求権の一内容を構成する権利として尊重されるべきであることは明白である。
そして,憲法13条は基本的人権としての人格権や幸福追求権を保障している。原判決において,親子の養育関係が親と子のそれぞれにとっての人格的利益であり,当然に失われるものではなく,また,失われるべきものでもない,とされていることに照らすと(原判決8-12頁,第一審判決25頁,第一審判決31頁),親権は単なる養育関係を越えて,より一層,親子の人格的関係に密接に関係し,その行使を通して親と子のそれぞれが人格を発達させ,幸福を追求する権利なのであるから,親権が憲法13条が保障する人格権や幸福追求権に含まれる基本的人権であることは明白である。
すると,基本的人権は合理的な理由なくしては制限されてはならない性質を有する権利なのであるから,自然権であり基本的人権である親の子に対する親権を制限できるのは,親から子に対する暴力行為があるなどの,合理的な理由がある場合に限定されることになる。
そして,離婚はあくまでも夫婦関係を清算させる制度であり,親子関係を終了させる制度ではないのであるから,それが自然権であり基本的人権である親の子に対する親権を制限できる理由に該当しないことは明白である。民法819条2項(本件規定)は,離婚があくまでも夫婦関係の解消であり,親子関係の解消ではないにも拘わらず,一律に,夫婦の離婚に伴い,一方親から親権を全面的に奪う規定なのであるから,そこには立法目的と手段との間に,論理的関係自体が認められないことは明白である。さらに,そこには立法目的と手段との間に,実質的関連性も認められないことは明白である。その意味で民法819条2項(本件規定)は,必要以上の制限を基本的人権である親の子に対する親権に与えた規定であり,憲法13条に違反していることは明白である。
また,離婚後単独親権制度を採用する民法819条2項(本件規定)は,子が自らが選び正せない両親の離婚という事柄を理由に,子が養育を受ける権利を持つ親権者を2人から1人に減らしてしまうという不利益を与える点において,憲法13条に違反することは明白である。
子の側から見ると,離婚後単独親権制度は,離婚という子には自らの意思や努力ではどうすることもできない事柄である。子が,自らが選び,正せない事柄を理由に不利益を及ぼすことは憲法14条1項や憲法24条2項に違反して許されない(最高裁大法廷平成25年9月4日決定,最高裁大法廷平成27年12月16日判決(女性の再婚禁止期間違憲訴訟))。すると,民法819条2項(本件規定)は,子の側から見ても,立法目的についても正当性がなく,立法目的と手段と間に実質的関連性が認められないことも明白である。
フランスでは,フランス民法典の1993年改正によって両親の共同親権が原則となり,更に2002年改正により,別居・離婚が親権の態様に影響を及ぼさないことが確認された。そして,親権は,「子の利益を目的とする権利と義務の総体である。」と規定されている(「国立国会図書館 離婚後面会交流及び養育費に係る法制度―米・英・仏・独・韓国―」5-6頁の「1 親権」(甲60))。
スウェーデンの親子法では,子どもの最善の利益は,2人の親によって等しくケアを受ける子どもの権利として解釈されている(甲56)。
そして,外国法の内容は,日本国憲法の解釈に影響を与える立法事実として存在している(最高裁大法廷平成27年12月16日判決(女性の再婚禁止期間違憲訴訟))。
すると,スウェーデンの親子法では,子どもの最善の利益は,2人の親によって等しくケアを受ける子どもの権利として解釈されていることは(甲56),当然に日本国憲法の解釈に影響を与える存在なのであるから,原判決が「民法の定める親権制度が「子の利益」のためのものであることが明示されている。」と判示したにも拘わらず(24頁),親の離婚後は離婚後単独親権制度が採用され,2人の親によるケアを否定している819条2項(本件規定)の合理性を肯定したことは明白な矛盾である。
さらに言えば,仮に親から子に対する暴力行為があるなどの,一方親の親権を失わせる必要性がある場合が存在しているとしても,民法には,親権喪失の審判制度(民法834条),親権停止の審判制度(民法834条の2),管理権喪失の審判制度(民法835条)が設けられているのであるから,離婚に際して親の子に対する親権を失わせなくても,親の子に対する親権を制限する合理的な理由がある場合には,それらの民法上の制度を用いることで対応が可能である。そのことは,平成23年の民法改正で親権停止の審判制度(民法834条の2)が導入されたことで明白となった。すると,民法819条2項(本件規定)は,それらの民法に規定された方法を用いるという,親の子に対する親権を制限するより制限的でない方法が存在しているにも拘わらず,一律に,夫婦の離婚に伴い,一方親から親権を全面的に奪う規定なのであるから,そこには立法目的と手段との間に,実質的関連性が認められないことは明白である。その意味で民法819条2項(本件規定)は,必要以上の制限を基本的人権である親の子に対する親権に与えた規定であり,憲法13条に違反していることは明白である。
この点について原判決は,憲法14条1項違反及び憲法24条2項違反の箇所において,「立法目的が前提とした元夫婦像にそのまま当てはまらない元夫婦も実際には相当数存在し得ると考えられるから,離婚をする夫婦にいわゆる共同親権を選択することができることとすることが立法政策としてあり得るところと解され,認定事実(2)のとおり,それを含めた検討が始められている様子もうかがわれる。」と判示した(原判決8-12頁,第一審判決32頁)。また,「離婚後の父母が,情報伝達手段を用いて頻繁に連絡を取り,子の利益のために相談をし,適切な決定をすることができるような協力関係にないことも想定され,他方の同意が得られないことにより子の監護及び教育に関する重大事項の決定を適時に適切に行うことができない事態が生じ得ることは否定できない。」と判示して(原判決8-13頁,第一審判決33頁),逆を言えば,「離婚後の父母が,情報伝達手段を用いて頻繁に連絡を取り,子の利益のために相談をし,適切な決定をすることができるような協力関係にあることも想定され,そのような場合には,他方の同意が得られないことにより子の監護及び教育に関する重大事項の決定を適時に適切に行うことができない事態が生じ得ない」関係もあることを認めた。さらに原判決は,「しかし,なるほど離婚後の父母に任意の協力関係が望める場合があり得,」と判示した(原判決8-13頁,第一審判決34頁)。
しかし,そうであれば,離婚に際して親の一方の親権を一律に全面的に剥奪する民法819条2項(本件規定)に合理性が認められないことは明白である。
原判決が,「立法目的が前提とした元夫婦像にそのまま当てはまらない元夫婦も実際には相当数存在し得ると考えられるから,離婚をする夫婦にいわゆる共同親権を選択することができることとすることが立法政策としてあり得るところと解され,認定事実(2)のとおり,それを含めた検討が始められている様子もうかがわれる。」と判示したり(原判決8-12頁,第一審判決32頁),「しかし,なるほど離婚後の父母に任意の協力関係が望める場合があり得,」と判示するなどした(原判決8-13頁,第一審判決34頁)その立場を前提とすると,①原則として離婚後は共同親権であり,②例外的に,原判決が「離婚後の父母が,情報伝達手段を用いて頻繁に連絡を取り,子の利益のために相談をし,適切な決定をすることができるような協力関係にないことも想定され,他方の同意が得られないことにより子の監護及び教育に関する重大事項の決定を適時に適切に行うことができない事態が生じ得ることは否定できない。」と判示したような事態が生じる場合には(原判決8-13頁,第一審判決33頁),民法には,親権喪失の審判制度(民法834条),親権停止の審判制度(民法834条の2),管理権喪失の審判制度(民法835条)が設けられているのであるから,離婚に際して親の子に対する親権を失わせなくても,親の子に対する親権を制限する合理的な理由がある場合には,それらの民法上の制度を用いることで対応を行う,とすることで原判決の懸念は払拭されるだけでなく,むしろ原判決の立場に合致するのである(そのことは,平成23年の民法改正で親権停止の審判制度(民法834条の2)が導入されたことで明白となった。))。すると,原判決の判示を前提としても,やはり民法819条2項(本件規定)の合理性が認められないことは明白である。
法律上の夫婦が形式的に離婚届を提出した後,実質的に内縁関係を継続することは法律上有効であるとされていること(最高裁昭和38年11月28日判決など)を典型例として,そのような離婚後の協力が可能な夫婦についてまで,一律に,夫婦の離婚に伴い,一方親から親権を全面的に奪う必要性がないことは明白である。(家族関係が多様化していることは,最高裁大法廷平成25年9月4日決定及び最高裁大法廷平成27年12月16日判決(女性の再婚禁止期間違憲訴訟)で指摘されていることである。その多様化している家族関係に,819条2項(本件規定)の硬直な規定は適用ができず,また柔軟な対応ができていないのである。)。その意味で民法819条2項(本件規定)の内容が,親と子の基本的人権である親権に対して,必要以上の制約を加えていることは明白であるし,立法目的と手段との間に実質的関連性が認められないことは明白である。
以上により,離婚に際して一方の親の親権を当然に失わせる民法819条2項(本件規定)は,必要以上の制限を基本的人権である親の子に対する親権に与えている点において,さらには立法目的と手段との間に論理的関係や実質的関連性が認められない点において,自然権であり基本的人権である親の子に対する親権を保障している憲法13条に違反して無効であることは明白である。民法819条2項(本件規定)が,人格権と幸福追求権の一内容として基本的人権である親権を保障した憲法13条に違反していることは明白である。
2 憲法14条1項違反について
憲法13条について述べたように,親の子に対する権利は自然権(自然的権利)である。そして,子の成長と養育に関わる親の子に対する親権は,親が子との自然的関係に基づいて子に対して行う養育,監護の作用の一環としてあらわれるものであり,人権の普遍性等に基づく存在である。また,親が子の成長と養育に関わることが,それを希望する者にとって幸福の源泉になるという意味である。それらの点に照らすと親の子に対する親権は,日本国憲法下においても,自然権(自然的権利)として憲法13条の幸福追求権及び人格権として保障されていることからすると,そのような性質を有する基本的人権である親権は,当然両親に平等に保障されなければならない性質のものであること,両親が平等に享受するべき性質のものであることは明白である。またそれは,子にとっても平等に享受されるべき性質のものであることは明白である。
また,離婚後単独親権制度を採用する民法819条2項(本件規定)は,子が自らが選び正せない両親の離婚という事柄を理由に,子が養育を受ける権利を持つ親権者を2人から1人に減らしてしまうという不利益を与える点において,憲法13条に違反することは明白である。
子の側から見ると,離婚後単独親権制度は,離婚という子には自らの意思や努力ではどうすることもできない事柄である。子が,自らが選び,正せない事柄を理由に不利益を及ぼすことは憲法14条1項や憲法24条2項に違反して許されない(最高裁大法廷平成25年9月4日決定,最高裁大法廷平成27年12月16日判決(女性の再婚禁止期間違憲訴訟))。すると,民法819条2項(本件規定)は,子の側から見ても,立法目的についても正当性がなく,立法目的と手段と間に実質的関連性が認められないことも明白である。
さらに,仮に親の子に対する親権が,憲法13条などで保障される基本的人権でないとされる場合であっても,親の子に対する親権が「親の子の養育関係」に含まれることは明白であり,その結果親の子に対する親権が「親の人格的な利益」に含まれることは明白である(原判決8-10頁,第一審判決25頁)。
そして,民法819条2項(本件規定)のために,離婚に際しての両親による親権争い(子の連れ去りや面会交流の拒否)などを生んでいること,その結果,親が子を養育するという,親と子のそれぞれにとっての人格的な利益そのものが失われていることは明白である。
この点につき,憲法14条1項は事柄の性質に相応して不合理な差別的取り扱いを禁止しているところ(最高裁大法廷平成20年6月4日判決(国籍法違憲判決),最高裁大法廷平成25年9月4日決定(非嫡出子相続分違憲決定),最高裁大法廷平成27年12月16日判決(女性の再婚禁止期間違憲訴訟)),親の子に対する愛情や,親が子の成長と養育に関わることで感じる幸福が,両親について平等なものである以上,それが合理的な理由なく区別されてはならないことは明白である。
そして,民法819条2項(本件規定)は,離婚があくまでも夫婦関係の解消であり,親子関係の解消ではないにも拘わらず,一律に,夫婦の離婚に伴い,一方親から親権を全面的に奪う規定なのであるから,そこには立法目的と手段との間に,論理的関係自体が認められないことは明白である。またそこには立法目的と手段との間で実質的関連性が認められないことは明白である。その意味で民法819条2項(本件規定)は,合理的な理由のない区別であり,憲法14条1項に違反していることは明白である。
また,民法819条2項(本件規定)は,子からすると親の離婚という,自らが選び,正せない事柄を理由に不利益を及ぼす規定なのであるから,それが合理的な理由のない区別であり,憲法14条1項に違反していることは明白である。
この点につき,仮に親から子に対する暴力行為があるなどの,一方親の親権を失わせる必要性がある場合が存在しているとしても,民法には,親権喪失の審判制度(民法834条),親権停止の審判制度(民法834条の2),管理権喪失の審判制度(民法835条)が設けられているのであるから,離婚に際して親の子に対する親権を失わせなくても,親の子に対する親権を制限する合理的な理由がある場合には,それらの民法上の制度を用いることで対応が可能である。そのことは,平成23年の民法改正で親権停止の審判制度(民法834条の2)が導入されたことで明白となった。すると,民法819条2項(本件規定)は,それらの民法に規定された方法を用いるという,親の子に対する親権を制限するより制限的でない方法が存在しているにも拘わらず,一律に,夫婦の離婚に伴い,一方親から親権を全面的に奪う規定なのであるから,そこには立法目的と手段との間に,実質的関連性が認められないことは明白である。その意味で民法819条2項(本件規定)は,立法目的と手段との間に実質的関連性を有していないことは明白であり,合理的な理由のない区別として憲法14条1項に違反していることは明白である。
以上からすれば,民法819条2項(本件規定)は,その両親について平等であるべき親権について,離婚に伴い一方の親のみが親権者となり,もう一方の親の親権を全面的に剥奪する規定なのであるから,それが合理的な理由のない区別であり,憲法14条1項に違反していることは明白である。
そして,民法819条2項(本件規定)は,離婚後,親の一方から一律かつ全面的に親権を剥奪し,親の一方だけが子に対する親権を有し,子についての法律上の決定を行う地位を与えている。それは「特権」であり,憲法14条1項に違反していることは明白である。
3 憲法24条2項違反について
憲法24条2項は,「離婚・・家族に関するその他の事柄に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。」と規定している。
憲法13条について述べたように,親の子に対する権利は自然権(自然的権利)である。そして,子の成長と養育に関わる親の子に対する親権は,親が子との自然的関係に基づいて子に対して行う養育,監護の作用の一環としてあらわれるものであり,人権の普遍性等に基づく存在である。また,親が子の成長と養育に関わることが,それを希望する者にとって幸福の源泉になるという意味である。それらの点に照らすと親の子に対する親権は,日本国憲法下においても,自然権(自然的権利)として憲法13条の幸福追求権及び人格権として保障されていることからすると,そのような性質を有する基本的人権である親権は,当然両親に平等に保障されなければならない性質のものであること,両親が平等に享受するべき性質のものであることは明白である。またそれは,子にとっても平等に享受されるべき性質のものであることは明白である。
また,離婚後単独親権制度を採用する民法819条2項(本件規定)は,子が自らが選び正せない両親の離婚という事柄を理由に,子が養育を受ける権利を持つ親権者を2人から1人に減らしてしまうという不利益を与える点において,憲法13条に違反することは明白である。
子の側から見ると,離婚後単独親権制度は,離婚という子には自らの意思や努力ではどうすることもできない事柄である。子が,自らが選び,正せない事柄を理由に不利益を及ぼすことは憲法14条1項や憲法24条2項に違反して許されない(最高裁大法廷平成25年9月4日決定,最高裁大法廷平成27年12月16日判決(女性の再婚禁止期間違憲訴訟))。すると,民法819条2項(本件規定)は,子の側から見ても,立法目的についても正当性がなく,立法目的と手段と間に実質的関連性が認められないことも明白である。
さらに,仮に親の子に対する親権が,憲法13条などで保障される基本的人権でないとされる場合であっても,親の子に対する親権が「親の子の養育関係」に含まれることは明白であり,その結果「親の人格的な利益」に含まれることは明白である(原判決8-10頁,第一審判決25頁)。
そして,民法819条2項(本件規定)のために,離婚に際しての両親による親権争い(子の連れ去りや面会交流の拒否)などを生んでいること,その結果,親が子を養育するという,親と子のそれぞれにとっての人格的な利益そのものが失われていることは明白である。
この点につき,民法819条2項(本件規定)は,離婚があくまでも夫婦関係の解消であり,親子関係の解消ではないにも拘わらず,一律に,夫婦の離婚に伴い,一方親から親権を全面的に奪う規定なのであるから,そこには立法目的と手段との間に,論理的関係自体が認められないことは明白である。またそこには立法目的と手段との間で実質的関連性が認められないことは明白である。その意味で民法819条2項(本件規定)は,合理的な理由のない区別であり,憲法24条2項に違反していることは明白である。
また,民法819条2項(本件規定)は,子からすると親の離婚という,自らが選び,正せない事柄を理由に不利益を及ぼす規定なのであるから,それが合理的な理由のない区別であり,憲法24条2項に違反していることは明白である。
この点につき,仮に親から子に対する暴力行為があるなどの,一方親の親権を失わせる必要性がある場合が存在しているとしても,民法には,親権喪失の審判制度(民法834条),親権停止の審判制度(民法834条の2),管理権喪失の審判制度(民法835条)が設けられているのであるから,離婚に際して親の子に対する親権を失わせなくても,親の子に対する親権を制限する合理的な理由がある場合には,それらの民法上の制度を用いることで対応が可能である。そのことは,平成23年の民法改正で親権停止の審判制度(民法834条の2)が導入されたことで明白となった。すると,民法819条2項(本件規定)は,それらの民法に規定された方法を用いるという,親の子に対する親権を制限するより制限的でない方法が存在しているにも拘わらず,一律に,夫婦の離婚に伴い,一方親から親権を全面的に奪う規定なのであるから,そこには立法目的と手段との間に,実質的関連性が認められないことは明白である。その意味で民法819条2項(本件規定)は,立法目的と手段との間に実質的関連性を有していないことは明白であり,合理的な理由のない区別として憲法24条2項に違反していることは明白である。
以上からすれば,民法819条2項(本件規定)は,その両親について平等であるべき親権について,離婚に伴い一方の親のみが親権者となり,もう一方の親の親権を全面的に剥奪する規定なのであるから,それが合理的な理由のない区別であり,憲法24条2項に違反していることは明白である。
そして,民法819条2項(本件規定)は,離婚後,親の一方から一律かつ全面的に親権を剥奪し,親の一方だけが子に対する親権を有し,子についての法律上の決定を行う地位を与えている。それは「特権」であり,憲法24条2項に違反していることは明白である。
そして,憲法24条2項が国会(国会議員)に対して「法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」と命じているのであるから,離婚後の親権についての法律も同条項によって,「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」ことは明白である。
以上により,民法819条2項(本件規定)は,離婚後,親の一方からは一律かつ全面的に親権を剥奪し,親の一方だけが子に対する親権を有し,子についての決定を行える地位を与えている。それは「特権」であり,「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した法律の制定」を国会(国会議員)に命じた憲法24条2項に違反していることは明白である。
4 離婚後共同親権制度を採用した上で,共同親権者による親権行使についての意見が対立した場合のためには,紛争の解決規定(手続規定)を設ければ足りる。そのような「共同親権行使の解決のための手続規定」が存在しないことは立法の不備なのであるから(甲37,甲38),そのような規定が存在しないことを理由として,離婚後共同親権制度の合理性を否定することは許されない。
例えば離婚後共同親権制度を採用しているドイツ民法においては,離婚後共同親権を前提として,一方の親だけで親権が行使できる規定を設けている(稲垣朋子「ドイツにおける離婚後の配慮」(甲57))。日本で離婚後共同親権制度を採用した場合にも,そのドイツ民法と同様の規定(ドイツ民法のように離婚後共同親権の両親の意思決定の場面を居所等の父母の双方で決定すべき重要事項と,現に監護している親が一人で決定できるような日常的な事項等に分ける法律規定)を設けることができるのであるから,そのような規定が存在しないことを理由として,離婚後共同親権制度の合理性を否定することは許されない。
5 原判決8頁(第一審判決25頁)が,「しかし,これらの人格的な利益と親権との関係についてみると,これらの人格的な利益は,離婚に伴う親権者の指定によって親権を失い,子の監護及び教育をする権利等を失うことにより,当該人格的な利益が一定の範囲で制約され得ることになり,その範囲で親権の帰属及びその行使と関連するものの,親である父と母が離婚をし,その一方が親権者とされた場合であっても,他方の親(非親権者)と子の間も親子であることに変わりがなく,当該人格的な利益は,他方の親(非親権者)にとっても,子にとっても,当然に失われるものではなく,また,失われるべきものでもない。」と判示したにも拘わらず,その「当該人格的な利益は,他方の親(非親権者)にとっても,子にとっても,当然に失われるものではなく,また,失われるべきものでもない。」とされた「人格的な利益」が,民法819条2項(本件規定)によって,失われていることは明白である。その点からしても,民法819条2項(本件規定)が立法目的においても,手段においても,いずれも合理性が認められないことは明白である。
第2 原判決に最高裁判所の判例と相反する判断があることについて
1(1) 原判決には,最高裁大法廷平成25年9月4日決定及び最高裁大法廷平成27年12月16日判決(女性の再婚禁止期間違憲訴訟)と相反する判断があることは明白である。
(2) 子の側から見ると,離婚後単独親権制度は,離婚という子には自らの意思や努力ではどうすることもできない事柄である。子が,自らが選び,正せない事柄を理由に不利益を及ぼすことは憲法14条1項や憲法24条2項に違反して許されないことは明白である。
ところが,原判決はそのような判断を行わなかったのであるから,原判決には,最高裁大法廷平成25年9月4日決定及び最高裁大法廷平成27年12月16日判決(女性の再婚禁止期間違憲訴訟)と相反する判断があることは明白である。
(3) また,裁判離婚はあくまでも夫婦関係を精算する制度であり,親子関係を清算する制度ではない。そして,裁判離婚をする親がその離婚に際して子に対する親権を失うことは,その親からすると,その親からすると,裁判離婚という強制的な夫婦関係の解消手続が行われた結果,裁判所の判断という自らの意思や努力ではどうすることもできない事柄によって,子に対する親権を失うことを意味している。それは,親が,自らが選び,正せない事柄を理由に不利益を及ぼすことに該当し,憲法14条1項や憲法24条2項に違反して許されないことは明白である。
ところが,原判決はそのような判断を行わなかったのであるから,原判決には,最高裁大法廷平成25年9月4日決定及び最高裁大法廷平成27年12月16日判決(女性の再婚禁止期間違憲訴訟)と相反する判断があることは明白である。
2(1) 原判決には,最高裁大法廷昭和51年5月21日判決と相反する判断があることは明白である。
(2) 最高裁大法廷昭和51年5月21日判決(旭川学テ事件判決)は,親の子に対する親権が,自然権であり,基本的人権であることを認めたものである。
旭川学力テ事件判決における,親の子に対する教育権が基本的人権であることを認めた判示部分を以下で引用する。
「この子どもの教育は,その最も始原的かつ基本的な形態としては,親が子との自然的関係に基づいて子に対して行う養育,監護の作用の一環としてあらわれるのである」
「まず親は,子どもに対する自然的関係により,子どもの将来に対して最も深い関心をもち,かつ,配慮をすべき立場にある者として,子どもの教育に対する一定の支配権,すなわち子女の教育の自由を有すると認められるが,このような親の教育の自由は,主として家庭教育等学校以外における教育や学校選択の自由にあらわれるものと考えられるし,」
すると,旭川学力テ事件判決が,「親の学校選択の自由」を「自然権としての教育の自由に含まれる」と判示していることからすると,親の子に対する親権が自然権であり基本的人権であることを認めたことは明白である。なぜならば,「学校選択の自由」は,まさに親による親権の行使だからである。それは,旭川学テ事件判決が,親の子に対する親権が自然権であり基本的人権であることを認めたことを意味している。
ところが原判決は,「控訴人は,親権が憲法13条で保障されていることを基礎付ける根拠として,旭川学テ事件判決並びに諸外国の法制度及び裁判例を指摘する。しかし,旭川学テ事件判決は,子の教育について国家の干渉を制限する観点から,親に一定の決定権能がある旨を判示したもので,それを越え,親権が憲法13条により保障された権利であるという判断をしたものではなく,その趣旨を含むものとも解されない。」と判示して,親権や憲法13条により保障された基本的人権であることを否定した上で,民法819条2項(本件規定)が憲法13条,憲法14条1項,憲法24条2項に違反しないと判示したのであるから,原判決には,最高裁大法廷昭和51年5月21日判決と相反する判断があることは明白である。
以上