🐶原告(X) 控訴理由書(要旨)
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令和3年(ネ)第1297号 損害賠償請求控訴事件
控訴人 (閲覧制限)
被控訴人 国
令和3年4月5日
控 訴 理 由 書(要旨)
東京高等裁判所 御中
控訴人訴訟代理人弁護士 作 花 知 志
第1 争点(1) (本件規定を改廃しなかったという立法不作為の国家賠償法上の違法性)について
1 憲法13条違反について
憲法13条は基本的人権としての人格権や幸福追求権を保障している。原判決において,親子の養育関係が親と子のそれぞれにとっての人格的利益であり,当然に失われるものではなく,また,失われるべきものでもない,とされていることに照らすと(原判決25頁,原判決31頁),親権は単なる養育関係を越えて,より一層,親子の人格的関係に密接に関係し,その行使を通して親と子のそれぞれが人格を発達させ,幸福を追求する権利なのであるから,親権が憲法13条が保障する人格権や幸福追求権に含まれる基本的人権であることは明白である。
すると,基本的人権は合理的な理由なくしては制限されてはならない性質を有する権利なのであるから,自然権であり基本的人権である親の子に対する親権を制限できるのは,親から子に対する暴力行為があるなどの,合理的な理由がある場合に限定されることになる。
そして,離婚はあくまでも夫婦関係を清算させる制度であり,親子関係を終了させる制度ではないのであるから,それが自然権であり基本的人権である親の子に対する親権を制限できる理由に該当しないことは明白である。民法819条2項(本件規定)は,離婚があくまでも夫婦関係の解消であり,親子関係の解消ではないにも拘わらず,一律に,夫婦の離婚に伴い,一方親から親権を全面的に奪う規定なのであるから,そこには立法目的と手段との間に,論理的関係自体が認められないことは明白である。さらに,そこには立法目的と手段との間に,実質的関連性も認められないことは明白である。その意味で民法819条2項(本件規定)は,必要以上の制限を基本的人権である親の子に対する親権に与えた規定であり,憲法13条に違反していることは明白である。
さらに言えば,仮に親から子に対する暴力行為があるなどの,一方親の親権を失わせる必要性がある場合が存在しているとしても,民法には,親権喪失の審判制度(民法834条),親権停止の審判制度(民法834条の2),管理権喪失の審判制度(民法835条)が設けられているのであるから,離婚に際して親の子に対する親権を失わせなくても,親の子に対する親権を制限する合理的な理由がある場合には,それらの民法上の制度を用いることで対応が可能である。そのことは,平成23年の民法改正で親権停止の審判制度(民法834条の2)が導入されたことで明白となった。すると,民法819条2項(本件規定)は,それらの民法に規定された方法を用いるという,親の子に対する親権を制限するより制限的でない方法が存在しているにも拘わらず,一律に,夫婦の離婚に伴い,一方親から親権を全面的に奪う規定なのであるから,そこには立法目的と手段との間に,実質的関連性が認められないことは明白である。その意味で民法819条2項(本件規定)は,必要以上の制限を基本的人権である親の子に対する親権に与えた規定であり,憲法13条に違反していることは明白である。
2 憲法14条1項違反及び憲法24条2項違反について
基本的人権である親権は,当然両親に平等に保障されなければならない性質のものであること,両親が平等に享受するべき性質のものであることは明白である。またそれは,子にとっても平等に享受されるべき性質のものであることは明白である。
さらに,仮に親の子に対する親権が,基本的人権ではないとされたとしても,親が子の成長と養育に関わることが,それを希望する者にとって幸福の源泉になるという意味であることなどに鑑みると,憲法14条1項及び憲法24条2項で保障される人格的利益であることは明白である。そのような性質を有する人格的利益である親権は,当然両親に平等に保障されなければならない性質のものであること,両親が平等に享受するべき性質のものであることは明白である。またそれは,子にとっても平等に享受されるべき性質のものであることは明白である。
以上からすれば,民法819条2項(本件規定)は,その両親について平等であるべき親権について,離婚に伴い一方の親のみが親権者となり,もう一方の親の親権を全面的に剥奪する規定なのであるから,それが合理的な理由のない区別であり,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
そして民法819条2項(本件規定)は,子からすると親の離婚という,自らが選び,正せない事柄を理由に不利益を及ぼす規定なのであるから,それが合理的な理由のない区別であり,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
民法819条2項(本件規定)は,離婚があくまでも夫婦関係の解消であり,親子関係の解消ではないにも拘わらず,一律に,夫婦の離婚に伴い,一方親から親権を全面的に奪う規定なのであるから,そこには立法目的と手段との間に,論理的関係自体が認められないことは明白である。またそこには立法目的と手段との間で実質的関連性が認められないことは明白である。その意味で民法819条2項(本件規定)は,合理的な理由のない区別であり,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
また,仮に親から子に対する暴力行為があるなどの,一方親の親権を失わせる必要性がある場合が存在しているとしても,民法には,親権喪失の審判制度(民法834条),親権停止の審判制度(民法834条の2),管理権喪失の審判制度(民法835条)が設けられているのであるから,離婚に際して親の子に対する親権を失わせなくても,親の子に対する親権を制限する合理的な理由がある場合には,それらの民法上の制度を用いることで対応が可能である。そのことは,平成23年の民法改正で親権停止の審判制度(民法834条の2)が導入されたことで明白となった。すると,民法819条2項(本件規定)は,それらの民法に規定された方法を用いるという,親の子に対する親権を制限するより制限的でない方法が存在しているにも拘わらず,一律に,夫婦の離婚に伴い,一方親から親権を全面的に奪う規定なのであるから,そこには立法目的と手段との間に,実質的関連性が認められないことは明白である。その意味で民法819条2項(本件規定)は,立法目的と手段との間に実質的関連性を有していないことは明白であり,合理的な理由のない区別として憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
3 離婚後共同親権制度を採用した上で,共同親権者による親権行使についての意見が対立した場合のためには,紛争の解決規定(手続規定)を設ければ足りる。そのような「共同親権行使の解決のための手続規定」が存在しないことは立法の不備なのであるから(甲37,甲38),そのような規定が存在しないことを理由として,離婚後共同親権制度の合理性を否定することは許されない。
また,例えば離婚後共同親権制度を採用しているドイツ民法においても,離婚後共同親権を前提として,一方の親だけで親権が行使できる規定を設けている(稲垣朋子「ドイツにおける離婚後の配慮」(甲57))。日本で離婚後共同親権制度を採用した場合にも,そのドイツ民法と同様の規定(ドイツ民法のように離婚後共同親権の両親の意思決定の場面を居所等の父母の双方で決定すべき重要事項と,現に監護している親が一人で決定できるような日常的な事項等に分ける法律規定)を設けることができるのであるから,そのような規定が存在しないことを理由として,離婚後共同親権制度の合理性を否定することは許されない。
4 原判決25頁が,「しかし,これらの人格的な利益と親権との関係についてみると,これらの人格的な利益は,離婚に伴う親権者の指定によって親権を失い,子の監護及び教育をする権利等を失うことにより,当該人格的な利益が一定の範囲で制約され得ることになり,その範囲で親権の帰属及びその行使と関連するものの,親である父と母が離婚をし,その一方が親権者とされた場合であっても,他方の親(非親権者)と子の間も親子であることに変わりがなく,当該人格的な利益は,他方の親(非親権者)にとっても,子にとっても,当然に失われるものではなく,また,失われるべきものでもない。」と判示したにも拘わらす,その「当該人格的な利益は,他方の親(非親権者)にとっても,子にとっても,当然に失われるものではなく,また,失われるべきものでもない。」とされた「人格的な利益」が,民法819条2項(本件規定)によって,失われていることは明白である。その点からしても,民法819条2項(本件規定)が立法目的においても,手段においても,いずれも合理性が認められないことは明白である。
5 民法819条2項(本件規定)が憲法13条,14条1項若しくは24条2項又は自由権規約,児童の権利に関する条約若しくはハーグ条約に違反することは明白である。
控訴人はその明白性を根拠付ける事実として,特に以下の事実を改めて引用する。
①民法819条2項(本件規定)は,離婚があくまでも夫婦関係の解消であり,親子関係の解消ではないにも拘わらず,一律に,夫婦の離婚に伴い,一方親から親権を全面的に奪う規定なのであるから,そこには立法目的と手段との間に,論理的関係自体が認められないことは明白であること。
また,仮に離婚に伴い一方親の親権を失わせる必要性がある場合が存在しているとしても,そのような場合のために,民法は既に親権喪失制度(民法834条),親権停止制度(民法834条の2),管理権喪失制度(民法835条)の3種類の段階を分けた制度を設けているのであるから,あえて全ての離婚に際して,一方親の親権を,一律に全面的に失わせることには合理的な理由そのものがないことは明白である。特にそのことは,平成23年の民法改正により,親権停止制度(民法834条の2)が制定されたことで明白になったこと。
②平成23年に民法が改正された際に,衆議院(甲14)や参議院法務委員会(甲15)において,「離婚後の共同親権・共同監護の可能性を含め,その在り方全般について検討すること。」(甲14),「離婚後の共同親権・共同監護の可能性など,多様な家族像を見据えた制度全般にわたる検討を進めていくこと。」(甲15)との内容の「民法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議」が採択されたこと。
③第183回国会(常会)(平成25年)に浜田和幸議員が参議院議長に提出した質問主意書には,以下の内容が指摘されていること(甲31)。
「一 調停や裁判による離婚の場合,国内の家庭裁判所では,連れ去った親の側に親権が与えられ,連れ去られた側の親は月一回程度の面会しか認められない判決が圧倒的に多く,その面会も理由を付けて拒絶され,子に全く会えなくなった苦痛から自殺する親もいる。」
④民法819条2項(本件規定)により離婚後単独親権者となった親が再婚した再婚相手から,子が児童虐待を受けている例が多いとの報告がされていること(甲10,甲11,甲12,甲13)。
⑤民法819条2項(本件規定)は,離婚後に子の親権者となることを希望する親の間で熾烈な争いを生み,その結果子の連れ去りを生み,さらには監護実績で優位に立つために子と別居親との面会断絶をも生んでいること(甲28,甲43)。離婚に詳しい弁護士から,「離婚紛争にあっても,「父母がそれぞれ,子に対してその責任や役割をどう果たしていくべきか」と発想する前に,「いずれが親権者として適当か」の熾烈な争いを招く現行法の枠組みは,時代に合わない」との指摘がされていること(甲43)。
⑥心理学的研究の結果,子が別居親と面会交流をできていればいるほど,子は自己肯定感が高く,また他者とのコミュニケーション能力が高いことが判明していること(甲46,甲47,甲48,甲49,甲50)。
⑦令和2年3月23日に,夫との間で離婚後の子の親権争いと親権問題のトラブルが生じていた外国人妻が,13歳と10歳の子を殺す悲劇が起きたこと(甲40)。
⑧民法819条2項(本件規定)は,親が離婚した家庭の子に対して「ひとり親」という言葉を生んでいること。子が「ひとり親」であることから差別を受けているという指摘がされていること(甲52,甲53,甲54)。
⑨1982年にドイツ連邦憲法裁判所は,日本の民法の母法であるドイツ民法が規定していた離婚後単独親権制度について,法の下の平等に違反して憲法に違反するとの判決を出したこと(甲7)。
⑩2008年にルクセンブルク憲法院は,ルクセンブルクが規定していた離婚後単独親権制度について,法の下の平等に違反して憲法に違反するとの決定を出したこと(甲41)。
⑪フランスでは1993年に法改正がされて離婚後共同親権が原則とされたが,その法改正は大成功であった,と評価されていること(甲26号証の34頁)。
⑫諸外国では,離婚後共同親権制度を採用した上で,共同親権者による親権行使についての意見が対立した場合のためには,紛争の解決規定(手続規定)を設けていること(甲37,甲38)。さらに,離婚後共同親権制度を採用しているドイツ民法においても,離婚後共同親権を前提として,離婚後共同親権の両親の意思決定の場面を居所等の父母の双方で決定すべき重要事項と,現に監護している親が一人で決定できるような日常的な事項等に分ける法律規定を設けていること(稲垣朋子「ドイツにおける離婚後の配慮」(甲57))。日本で離婚後共同親権制度を採用した場合にも,諸外国のように紛争の解決規定(手続規定)(甲37,甲38)や,離婚後共同親権の両親の意思決定の場面を居所等の父母の双方で決定すべき重要事項と,現に監護している親が一人で決定できるような日常的な事項等に分ける法律規定(稲垣朋子「ドイツにおける離婚後の配慮」(甲57))を設ければ,両親の親権行使についての意見の不一致が生じた場合でも問題は生じないこと。
⑬令和元年9月27日に,法務省が,離婚後も父母の両方が親権を持つ「共同親権」の導入の是非などを検討する研究会を年内に設置すると発表したこと(甲25)。
⑭令和2年4月10日に,法務省が,離婚後の親権制度や子の養育の在り方をめぐり,外務省を通じて行った24カ国対象の調査結果を公表したこと。それによると,離婚後も父母双方に親権が残る「共同親権」は,カナダや中国など多くの国で認められていること。日本のように離婚後は片方の親だけが親権を持つ「単独親権」はインドとトルコ2カ国のみであったこと(甲42)。
⑮令和2年6月25日に自由民主党調査会司法制度調査会が発表した2020提言19頁には,「父母が様々な理由で離婚する場合であっても,子が両親の十分な情愛の下で養育されることが,子の成長ひいては日本の未来にとって重要なことであることはいうまでもない。しかしながら,日本では,離婚を巡って夫婦間で子の連れ去りが起きたり,子と別居親との関係が遮断されたりするケースも少なくない。日本の宝である子の権利や招来を守るため,離婚後の親権制度の在り方,面会交流の在り方など,それぞれの課題について,諸外国の取組に学びつつ党内の関係組織とも連携して,引き続き検討を進めていく。」と記載されていること(甲51)。
⑯令和3年2月10日に,上川法務大臣が,法制審議会に,離婚後共同親権制度と面会交流制度の法改正などについて諮問を行ったこと。その諮問は,親が離婚したあとの子どもの養育をめぐり,離れて暮らす親子が定期的に会う「面会交流」が実施されない問題,それに,父親か母親のどちらか一方しか持つことができない「単独親権」の在り方などの課題の指摘を受けた諮問であること。諮問を受けた法制審議会では,「面会交流」を適切に確保するための取り決めや,父親と母親の双方が子どもの親権を持つ「共同親権」の導入の是非なども含め,離婚したあとの子どもの養育の在り方について,幅広く議論される見通しであること(甲59)。
第2 争点(2)(損害の発生及びその額)について
1 控訴人は,民法819条2項(本件規定)により,離婚に伴い子に対する親権を一律かつ全面的に失った。
民法819条2項(本件規定)により控訴人が受けた損害とその額については,控訴人が訴状等で主張したとおりである。さらにそれは,控訴人が提出した控訴人の陳述書(甲27)及びそれを主張として引用した内容(控訴人が原審で提出した準備書面(1)25頁7項)からも明白である。
以上