🐘被告(国) 第2準備書面

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平成31年(ワ)第7514号損害賠償請求事件
原告 (閲覧制限)
被告 国

第2準備書面

令和2年2月28日

東京地方裁判所民事第49部乙B係御中

被告指定代理人
今井志津
松田朋子
湯峯奈々子
大野史絵
倉重龍輔
志田智之
陶山敦司
佐藤博行


 被告は,本準備書面において,訴状及び原告の令和元年11月25日付け準備書面⑴(以下「原告準備書面⑴」という。)に対して必要と認める範囲で反論する。
 なお,略語等は,本書面で新たに用いるもののほか,従前の例による。

第1 条約違反をいう原告の主張に理由がないこと
1 はじめに
 原告は,裁判離婚後単独親権制度を定める本件規定は,自由権規約,児童の権利条約及びハーグ条約に違反すると主張するが,以下に述べるとおり,これらの主張はいずれも失当である。
2 自由権規約についての原告の主張が失当であること
⑴ 原告の主張
ア 原告は,自由権規約23条4項第1文が「この規約の締約国は,婚姻中及び婚姻の解消の際に,婚姻に係る配偶者の権利及び責任の平等を確保するため,適当な措置をとる。」として,日本が同条約の締約国として当該義務を負うことを規定しているにもかかわらず,裁判離婚後の単独親権制度を採用しており,また,同条項第2文が「その解消の場合には,児童に対する必要な保護のため,措置がとられる。」と規定しているところ,児童虐待を防ぐ有力な手段となる離婚後共同親権制度を採用していないから,本件規定は自由権規約23条4項に違反する旨主張する(訴状・14及び15ページ)。
イ また,原告は,自由権規約26条が「すべての者は,法律の前に平等であり,いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため,法律は,あらゆる差別を禁止し及び人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。」と規定しているところ,本件規定は,必要を超えた制限を親権を失う者に加え,夫婦であった両親の間で合理的な理由のない差別的取扱いを行うものであるから,自由権規約26条に達反する旨主張する(訴状・15ベージ)。
⑵ 被告の反論
ア しかしながら,自由権規約23条4項は,締約国が執るべき具体的な措置について規定しておらず,原告の主張に係る「離婚後共同親権制度」の採用のための措置を執ることを締約国に直ちに求めているものと解することは困難である。したがって,民法819条2項が自由権規約23条4項に違反するとはいえない。
 この点をおくとして,離婚後共同親権制度が児重虐待を防ぐ有力な手段となるとの原告の主張は,離婚後共同親権制度が採用されると,未成年の子と同居していない親が子と接触する機会があたかも増大するとの前提に基づくものと解されるところ,被告の令和元年8月30日付け第1準備書面(以下「被告第1準備書面」という。)第2の2⑸及び5⑵(5,10及び11ページ)で述べたとおり,我が国の法制上,親権を有しないことを面会交流の制限理由とする規定は存在せず,父母が離婚した場合に,子と同居しない側の親が,離婚前に比べて子と接触する機会が減少することは,親権者として父母の一方が定められる場合も父母の双方が定められる場合も変わりはないのであるから,上記⑴アの主張はその前提を欠く。
 したがって,原告の上記⑴アの主張は失当である。
イ また,被告第1準備書面第2の4(6及び7ベージ)で述べたとおり,本件規定は,父母間において別異取扱いをしているものではないから,上記⑴イの主張は失当である。
3 児童の権利条約についての原告の主張が失当であること
⑴ 原告の主張
ア 原告は,児童の権利条約9条1項が「締約国は,児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。」と規定し,児童の「その父母の意思に反してその父母から分離されない」権利を保護しているところ,本件規定は,未成年者子が親権を失った親から分離され,時には親権を失った親の意思に反して連れ去られる事態をしばしば生ぜしめていること,また,同条約9条3項が「締約国は,児童の最善の利益に反する場合を除くほか,父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。」と規定し,児童の「頻繁で継続的な親子の交流」の権利を保護しているところ,本件規定が面会交流を限定的なものとしていることからすれば,本件規定は,児童の権利条約9条1項及び同条3項に違反する旨主張する(訴状・16,29及び30ベージ,原告準備書面⑴・22及び23ページ)。
イ また,原告は,児童の権利条約18条1項が「締約国は,児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。父母又は場合により法定保護者は,児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有する。児童の最善の利益は,これらの者の基本的な関心事項となるものとする。」と規定し,未成年者子に対して,「両親の共同親権の下で養育される権利」を保障しているところ,本件規定は,児童の養育及び発達について父母の片方だけが責任を有する制度を定めている点で,児童の権利条約18条1項に違反する旨主張する(訴状・16,17,30及び31ページ,原告準備書面⑴・22及び23ページ)。
⑵ 被告の反論
ア しかしながら,児童の権利条約は児童の最善の利益を主として考慮するとしており,具体的には9条1項は,「縮約国は,児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。」との規定に続いて,「ただし,権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は,この限りでない。」と規定している。また,同条3項も「児童の最善の利益に反する場合を除くほか」との留保が付されている。被告第1準備書面第2の2⑶(4ベージ)で述べたとおり,本件規定は,裁判上の離婚をする父母について,裁判所が後見的立場から親権者としての適格性を吟味し,その一方を親権者と定めることにより,子の利益を保護する制度であり,上記ただし書及び留保と整合的と解されるところ,原告の本件規定が児童の権利条約9条1項及び3項に違反するとの主張は,上記ただし書及び留保を踏まえた主張とは考えられず,原告の上記⑴アの主張は失当というべきである。
 また,既に主張したとおり,我が国の法制上,親権を有しないことを面会交流の制限理由とする規定は存在せず,本件規定が面会交流を限定的なものとしているとの原告の主張も失当である。
イ また,児童の権利条約18条1項も,「児童の養育及び発達」について父母が「共同の責任」を有するという原則についての認識を確保するよう,締約国が最善の努力を払うことを規定したものにすぎず,離婚後共同親権制度の採用を締約国に直ちに求める規定と解することは困難である。したがって,本件規定が児童の権利条約18条1項に違反するとはいえない。
 したがって,原告の上記⑴イの主張も失当である。
4 ハーグ条約についての原告の主張が失当であること
⑴ 原告の主張
 原告は,外国から日本への子の連れ去りはハーグ条約によって禁止される一方で,日本で離婚して本件規定により未成年者子の親権者となった者が,日本国内で未成年者子を連れ去り,さらには外国へと未成年者子を連れ去ることが容認されてしまう結果が生じているのであり,本件規定は,ハーグ条約の理念に反する旨主張する(訴状・20ベージ)。
⑵ 被告の反論
 しかしながら,ハーグ条約は,①一方の親によって子が国境を越えて不法に連れ去られ,又は留置されることにより,子が異なる言語又は異なる環境での生活を余儀なくされる等,有害な影響から子を国際的に保護すること及び②子の監護に関する事項は子の元の居住国において決定されるべきとの理念に基づき(前文,1条,16条,19条参照),元の居住国に子を迅速に返還することを確保するための手続及び国境を越えた親子の面会交流等接触の権利の保護を確保する手続について定めたものであり,各締約国の親権を含む監護のあり方について何ら定めたものではないことから,本件規定との抵触は直ちに問題とならない。
 そもそも,同条約を実施するための国内法(実施法)が既に整備されているところ,本件規定がハーグ条約の「理念」に反するとの原告の主張が,立法不作為の違法性の要件該当性にいかなる意味で結びつくのかは不明であるといわざるを得ない。
 したがって,上記⑴の主張は失当である。

第2 原告準備書面⑴に対する反論
1 本件規定が憲法13条に違反するものではないこと
⑴ 原告は,親権が幸福追求権ないし人格権として憲法13条により保障されていることを前提に,本件規定は,離婚が親子関係の解消ではないにもかかわらず,父母の離婚に伴って一方の親から親権を全面的に奪う規定であるから,立法目的と手段との間に論理的関係ないし実質的関連性が認められず,憲法13条に違反していることが明白である旨主張する(原告準備書面⑴・10ないし12ページ)。
⑵ しかしながら,親権が憲法上保障された人権ではないことについては,既に被告第1準備書面第2の3(5及び6ぺージ)で主張したとおりである。
 この点,原告は,旭川学力テスト判決の「子どもの教育は,子どもが将来一人前の大人となり,共同社会の一員としてその中で生活し,自己の人格を完成,実現していく基礎となる能力を身につけるために必要不可欠な営みであり,それはまた,共同社会の存続と発展のためにも欠くことのできないものである。この子どもの教育は,その最も始源的かつ基本的な形態としては,親が子との自然的関係に基づいて子に対して行う養育,監護の作用の一環としてあらわれるのである」との判示をその論拠とするものであるが,同判示部分は,あくまで国家と家庭のいずれが教育の内容を決定する権能を有するかという文脈におけるものである一方で,そもそも教育を超えた「親権」について判示するものではないから,原告の上記主張の論拠たり得ない。
 よって,親権が憲法13条により保障されていることを前提とする原告の上記主張はその前提自体失当である。
2 本件規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく
制約するものであることが明白であるとはいえないこと
⑴ 立法不作為における国賠法上の違法性の判断枠組み
 被告第1準備書面第2の1(2及び3ベージ)で述べたとおり,国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。もっとも,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合等においては,国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けることがあると解される(平成27年再婚禁止期間違意判決参照)。
 この点,本件規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものでないことについては,被告第1準備書面第2の3ないし6(5ないし12ページ)で述べたところであるが,以下では,念のため,上記違法性の判断枠組みにおけるいわゆる明白性の要件を欠くことについても述べておく。
⑵ 本件規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由な
く制約するものであることが明白であるとはいえないこと
 親権の内容については,被告第1準備書面第2の2(3ないし5ぺージ)で述べたところであるが,ふえんするに「親権」の内容は,民法上,監護教育,居所指定,懲戒,職業許可,財産管理と多岐にわたり(民法820条ないし824条),実際的には,子の服装,食事,交友関係等日常生活に関する事項や,習い事,進学等教育に関する事項,ワクチン接種,投薬,手術等医療に関する事項等広範囲に及ぶ。そして,現行法上,父母の離婚後であっても,父母双方が子と交流し,父母が共同して子に関する決定をすることは何ら禁止されているものではない。問題となるのは,そのような父母の任意の協力関係が望めない場合であるが,その場合,仮に離婚後共同親権制度を採ったとすると,上記のとおり広範囲に及ぶ子に関する決定の全てを難婚した父母が共同で行うのか,一部のみ共同で行うのであればどの範囲で共同するのか,父母間で合意が整わないときは誰がどのように解決するのかなど,様々な間題が生じることが考えられる。したがって,被告第1準備書面第2の2⑶(4ページ)で述べたとおり,離婚後共同親権制度の下では,子に関する決定について父母の間で適時に適切な合意を形成することができず,かえって子の利益が害されるおそれがあることに十分留意する必要がある。一方で,本件規定は,裁判所が後見的立場から親権者としての適格性を吟味し,その一方を親権者と定めることで,子に関する事項について適時に適切な決定がされ,子の利益を保護することにつながるものであり,十分な合理性を有するものである。したがって,裁判離婚後共同親権制度を仮に導入するとした場合には,現行の親権の内容や共同行使の在り方といった点についても併せて検討することが不可避である。実際,原告が提出した朝日新聞記事(甲第25号証)で記載されている「研究会」においても,「親権者が子に関して何をすることができ,また,子に対して何をしなければならないのかについては,民法第820条以下に規定されているが,現行法による取扱いで問題がないのかという点については,十分な整理,検討がされていないようにも思われる。」,「社会の複雑化や,医療の高度化等によって,今後,子の養育の在り方に関する決定も更に複雑になっていくものと考えられることから,親権の内容について整理することが考えられる。」(乙第6号証「研究会資料1-1」2ベージ),「仮に,離婚後共同親権を導入する場合には,父母が離れて暮らしている以上,通常は,子の主たる監護者を父母のいずれか一方に定めることになることから,監護者が単独で決められることと,共同でなければ決められないこととの区別がより重要となるため,(中略)親権の内容について,十分な整理が必要になる。」(同号証4ページ)などの検討課題が挙げられているところである。
 被告としても,離婚後共同親権制度を採用している国があることや,父母の離婚後の子の養育の在り方について,立法政策として,様々な選択肢があり得ることは否定しない。しかしながら,我が国において現行制度が合理性を有することは先述のとおりである一方,仮に裁判離婚後共同親権制度を導入する場合に克服しなければならない課題は多いことからすれば,本件規定が,「憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白である」といえないことは,明らかである。
⑶ 家族法研究会に係る原告の主張に理由がないこと
 なお,原告は,前記「研究会」に関して,法務省が離婚後共同親権制度の導入の是非等を検討する研究会を設置し,同制度への法改正を検討しているとの前提の下,そのことは離婚後単独親権制度について合理性が失われていることを如実に示す事実である旨主張する(訴状・23ないし28ページ,原告準備書面⑴・20ページ)。
 しかしながら,原告が言及する前記「研究会」は,原告が提出した朝日新聞記事(甲第25号証)にもあるとおり,あくまで公益社団法人商事法務研究会が主催する研究会であり,法務省や厚生労働省の担当者も参加しているものの,法務省が設置したものではない(乙第7号証「委員名簿」)。この研究会は,「家族法研究会」という名称で,民事法研究者や裁判実務家を主なメンバーとし,父母の離婚後の子の養育の在り方,普通養子制度,財産分与制度等の幅広い論点について検討するものであるが,各論点について方向性を定めることなく議論されており,離婚後共同親権制度についても,その導入を前提として議論されているものではない(乙第6号証第12段落目・1ページ)。
 そして,政府においても,現在,離婚後共同親権制度を導入する法改正を前提とした検討が行われている事実はない。
 したがって,原告の上記主張は前提を欠くものである。
⑷ 小括
 以上のとおり,本件規定が憲法上保障され又は保護された権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるとはいえない。
3 原告のその余の主張に理由がないこと
⑴ 原告は,①父母の離婚後に親権者がいなくなると,後見が開始されるまでの間,ないしはもう一方の実親による親権者変更の申立てが認められるまでの間は親権を行使する者がいない状態となるから,本件規定には欠陥があり,子の福祉の保護の観点から,憲法に適合しない不合理な規定である(原告準備書面⑴・36及び37ページ),②離婚後共同親権制度を採用している外国で離婚をして離婚後も共同親権者となった親は,日本の戸籍上も離婚後共同親権者と記載されるところ,本件規定は,日本で離婚をした者と外国で離婚をした者とを合理的理由なく区別するもので,憲法13条,14条及び24条2項に違反する(原告第1準備書面⑴・40ないし42ベージ)などと主張する。
⑵ しかしながら,上記①については,未成年者に対して親権を行う者がいない場合は,審判を経ずに後見が当然に開始することで,未成年者の保護が図られている(民法838条1号)。また,上記②については,離婚後であっても父母が親権者と戸籍に記載され得るのは,民事訴訟法118条が定める外国判決承認の要件を満たした結果にすぎず,我が国で裁判離婚をした結果共同親権が得られなかった者との問で合理的な理由のない区別をするものではない。
 したがって,原告の上記⑴の各主張にはいずれも理由がない。
第3 結語
 以上のとおり,原告の主張にはいずれも理由がないから,本件請求は速やかに棄却されるべきである。

以上