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平成31年(ワ)第7514号 損害賠償請求事件

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訴 状


平成31年 月 日
東京地方裁判所民事部 御中
原告訴訟代理人 弁護士 作花知志
原 告
〒700-0901 岡山市北区本町3番13号 イトーピア岡山本町ビル6階
作花法律事務所(送達場所)
電 話 086-206-2331
FAX 086-206-2332
上記原告訴訟代理人 弁護士 作 花 知 志
〒100-8977 東京都千代田区霞が関1-1-1
被 告 国
上記代表者法務大臣 山 下 貴 司

損害賠償請求事件
訴訟物の価額 165万円
貼用印紙額 1万4000円

目 次

第1 請求の趣旨 3頁
第2 請求の原因 3頁
1 当事者について 3頁
2 民法819条2項について 4頁
3 民法819条2項は,裁判離婚の一方当事者の基本的人権・人格的利益・利益に必要以上の制約を課すものであり,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反し,違憲であること 4頁
4 民法819条2項についての国会(国会議員)の立法不作為が国家賠償法上違法であること(本件違法行為) 32頁
5 原告の損害 34頁
6 結論 34頁

第1 請求の趣旨

1 被告は,原告に対し,金165万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。

第2 請求の原因

1 当事者について
(1) 原告は,平成 年 月 日に,元妻である (以下では「元妻」という。)と婚姻した。原告と元妻との間には,平成 年 月 日に長男 (以下では「長男」という。)が生まれた。さらに,平成 年 月 日に二男 (以下では「二男」という。)が生まれた。
(2) 元妻は,原告に対して,平成 年 月 日に東京家裁に夫婦関係調整(離婚)調停を申し立てた。その後,調停において離婚についての話し合いが続けられたが,長男と二男の親権者について合意が成立しなかったため,調停は同年 月 日に不成立となった。
(3) 元妻は,原告に対して,同月 日に東京家裁に離婚訴訟を提起した。
その離婚訴訟では,元妻が本訴請求において,離婚と長男及び二男の親権者を元妻とすることを請求し,原告も反訴請求において,やはり離婚と長男及び二男の親権者を原告とすることを請求した。
東京家裁は平成 年 月 日に,離婚を認めた上で,民法819条2項に基づき,長男と二男の親権者をいずれも元妻とする判決を出した(甲1)。
(4) 原告は東京高裁に控訴をしたが,東京高裁は平成 年 月 日に,原告の控訴を棄却した(甲2)。
(5) 原告は最高裁に上告及び上告受理申立をしたが,最高裁は平成 年 月 日に,原告の上告を棄却し,上告受理申立についても受理しなかった(甲3)。
その結果,長男と二男の親権者はいずれも元妻となり,原告は長男と二男の親権を失った。

2 民法819条2項について
民法819条2項は,「裁判上の離婚の場合には,裁判所は,父母の一方を親権者と定める。」と規定している。

3 民法819条2項は,裁判離婚の一方当事者の基本的人権・人格的利益・利益に必要以上の制約を課すものであり,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反し,違憲であること
(1) 憲法14条1項違反及び憲法24条2項違反について
ア 親の未成年者子に対する親権は,憲法24条2項(婚姻の自由を憲法24条2項から導き出した最高裁大法廷平成27年12月16日判決(平成25年(オ)第1079号,女性の再婚禁止期間違憲訴訟)参照。)や憲法13条(幸福追求権,人格権)により保障されている基本的人権である。
イ また,親子の自然的関係を論じた最高裁大法廷昭和51年5月21日判決(旭川学テ判決)が「子どもの教育は,子どもが将来一人前の大人となり,共同社会の一員としてその中で生活し,自己の人格を完成,実現していく基礎となる能力を身につけるために必要不可欠な営みであり,それはまた,共同社会の存続と発展のためにも欠くことのできないものである。この子どもの教育は,その最も始源的かつ基本的な形態としては,親が子との自然的関係に基づいて子に対して行う養育,監護の作用の一環としてあらわれるのである」と判示したことからしても,親の未成年者子に対する親権は,憲法が保障する基本的人権であることは明らかである。
この点につき,大森貴弘「翻訳:ドイツ連邦憲法裁判所の離婚後単独親権違憲判決」常葉大学教育学部紀要<報告>425頁(甲7)においても,「諸外国に目を転じると,ドイツでは子を育成する親の権利は自然権とされ,憲法でも明文化されており,アメリカでは平等原則と適正手続により親の権利が人権として認められている。日本国憲法には親の権利についての明文の規定はないが,親子の自然的関係を論じた最高裁判決(旭川学テ判決)が存在していることや人権の普遍性等を根拠として,憲法上認められうると解される。」と指摘されている。その指摘からしても,親の未成年者子に対する親権は,憲法が保障する基本的人権であることは明らかである。
ウ 民法820条は,「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負う。」と規定している。この規定も,親の未成年者子に対する親権が,基本的人権であることを前提とした規定である。
エ 憲法14条1項及び憲法24条2項が規定する法の下の平等の合憲性は,①立法目的に合理的根拠があるか及び②目的と区別との合理的関連性があるか,という2点から審査される(最高裁大法廷平成20年6月4日判決(国籍法違憲判決),最高裁大法廷平成25年9月4日決定(非嫡出子相続分違憲決定),最高裁大法廷平成27年12月16日判決(平成25年(オ)第1079号,女性の再婚禁止期間違憲訴訟)。
オ 裁判離婚において親の一方のみを親権者として定め,もう一方の親の未成年者子に対する親権を全て失わせる民法819条2項は,必要を超えた制限を,親権を失う者に加え,夫婦であった両親の間で,合理的な理由のない差別的取り扱いを行うものであり,①立法目的に合理的根拠はなく,②目的と区別との合理的関連性もなく,「すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。」と規定して,法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反する。
カ また,裁判離婚において親の一方のみを親権者として定め,もう一方の親の未成年者子に対する親権を全て失わせる民法819条2項は,必要を超えた制限を,親権を失う者に加え,夫婦であった両親の間で,合理的な理由のない差別的取り扱いを行うものであり,①立法目的に合理的根拠はなく,②目的と区別との合理的関連性もなく,「離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。」と規定した憲法24条2項に違反する。
(2) 憲法24条2項違反について
ア(ア) 最高裁大法廷平成27年12月16日判決(平成26年(オ)第1023号,夫婦別姓訴訟)は,憲法24条2項について,以下のように判示している。
「婚姻及び家族に関する事項は,関連する法制度においてその具体的内容が定められていくものであることから,当該法制度の制度設計が重要な意味を持つものであるところ,憲法24条2項は,具体的な制度の構築を第一時的には国会の合理的な立法裁量に委ねられるとともに,その立法に当たっては,同条1項も前提としつつ,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請,指針を示すことによって,その裁量の限界を画したものといえる。
そして,憲法24条が,本質的に様々な要素を検討して行われるべき立法作用に対してあえて立法上の要請,指針を明示していることからすると,その要請,指針は,単に,憲法上の権利として保障される人格権を不当に侵害するものでなく,かつ,両性の形式的な平等が保たれた内容の法律が制定されればそれで足りるというものではないのであって,憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益をも尊重すべきこと,両性の実質的な平等が保たれるように図ること,婚姻制度の内容により婚姻をすることが事実上不当に制約されることのないように図ること等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであり,この点でも立法裁量に限定的な指針を与えるものといえる。」
(イ) この最高裁大法廷平成27年12月16日判決(平成26年(オ)第1023号,夫婦別姓訴訟)の判示からすると,仮に親の未成年者子に対する親権が基本的人権でないと解釈されたとしても,憲法24条2項の解釈において,同条が「憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益をも尊重すべきこと,両性の実質的な平等が保たれるように図ること,婚姻制度の内容により婚姻をすることが事実上不当に制約されることのないように図ること等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであり,この点でも立法裁量に限定的な指針を与えるものといえる。」と判示された点につき,離婚後単独親権制度を規定した民法819条2項が憲法24条2項に違反しないかが問題となる。
イ さらに,無戸籍児問題についての嫡出否認制度違憲訴訟における大阪高裁平成30年8月30日判決(大阪高裁平成30年(ネ)第247号)において引用されている(甲5号証6頁),同判決の原審である神戸地裁平成29年11月30日判決(神戸地裁平成28年(ワ)第1653号)(甲4号証33頁)では,憲法24条2項について,以下のように判示している。その立場からすると,仮に親の未成年者子に対する親権が基本的人権でないと解釈されたとしても,憲法24条2項の解釈において,「憲法上直接保障された権利とまではいえない利益であってもなお尊重すべきものについて十分に配慮した法律の制定を求めていると解すべきである。」と判示された点につき,離婚後単独親権制度を規定した民法819条2項が憲法24条2項に違反しないかが問題となる。
「5 本件各規定の憲法24条2項適合性について
原告らは,本件各規定が,父と子及び父と妻との間で差別的な取扱いをしていることを根拠として,憲法24条2項に違反すると主張する。
憲法24条2項は,婚姻及び家族に関する事項について,具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに,その立法に当たっては,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請,指針を示すことによって,立法裁量の限界を画している。そして,同条は,憲法上直接保障された権利とまではいえない利益であってもなお尊重すべきものについて十分に配慮した法律の制定を求めていると解すべきである。」
ウ(ア) 民法820条は,「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負う。」と規定している。
(イ) 民法820条により,親の未成年者子に対する親権は「権利」であることが明記されているのであるから,仮に親の未成年者子に対する親権が基本的人権でないと解釈されたとしても,離婚後単独親権制度を規定した民法819条2項は,①親の未成年者子に対する親権という人格的利益を侵害するものであり,②親の一方のみが未成年者子の親権者となり,もう一方の親は未成年者子に対する親権を全て失うことで,両性の実質的な平等を損なうものであり,③未成年者子を連れ去った親が継続性の原則により親権を得る「連れ去り得」と言われる行為が横行しており,それは民法819条2項の離婚後単独親権制度を前提とした行為であるところ,それは離婚後単独親権制度という婚姻制度の内容により,婚姻を継続すること自体が事実上不当に制約されることを意味している(常葉大学教育学部紀要<報告>第38号2017年12月409-425頁大森貴弘「翻訳:ドイツ連邦憲法裁判所の離婚後単独親権違憲判決」の425頁(甲7)では,「わが国はハーグ条約に批准した後も、子どもを連れ去った配偶者が継続性の原則により親権を得る「連れ去り得」と言われる司法実務が横行しており、基本的人権を顧みない裁判実務には抜本的な改革が必要である。」と指摘されている。)。それらの点からすると,離婚後単独親権制度を規定した民法819条2項が,憲法24条2項に違反することは明白である(最高裁大法廷平成27年12月16日判決(平成26年(オ)第1023号,夫婦別姓訴訟))。
(ウ) 民法820条により,親の未成年者子に対する親権は「権利」であることが明記されているのであるから,仮に親の未成年者子に対する親権が基本的人権でないと解釈されたとしても,離婚後単独親権制度を規定した民法819条2項は,離婚後に親の一方が親権を全て失うという点において,①親の未成年者子に対する親権という,利益であってもなお尊重すべきものについて十分に配慮した法律の制定であるとはいえず,②その結果個人の尊厳と両性の本質的平等が損なわれる結果を生ぜしめている。それらの点からすると,離婚後単独親権制度を規定した民法819条2項が,憲法24条2項に違反することは明白である(大阪高裁平成30年8月30日判決(大阪高裁平成30年(ネ)第247号)(甲5号証6頁)及び同判決の原審である神戸地裁平成29年11月30日判決(神戸地裁平成28年(ワ)第1653号)(甲4号証33頁))。
(3) 民法819条2項は,裁判離婚をした夫婦について単独親権者を定めることを規定している。しかしながら,裁判離婚に際して,当事者の一方のみを未成年者子の親権者と定め,もう一方の親権を全て失わせることについては,合理性も,さらには必要性も,憲法上存在していない。
なぜならば,離婚とはあくまでも夫婦間における法律上の夫婦関係を解消するための法律制度であるからである。そして,夫婦関係の解消は親と未成年者子との親子関係の終了を意味しないからである。
そして,裁判離婚においては,未成年者子に対しては,当事者双方が離婚後も共同親権者であると同時に,未成年者子を現実に養育する者を監護者と指定すれば足りる(民法766条)。あえて裁判離婚に際して,当事者の一方のみを未成年者子の親権者と定め,もう一方の親権を全て失わせる必要性は,そもそも存在していないのである。
ところが,現在の民法819条2項は,裁判離婚において,一方の親の未成年者子に対する親権を,全面的に失わせているのである。それは基本的人権や平等権に対する必要以上の制約であり,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反することは明白である。
(4)ア 民法には,元々親権喪失の審判制度が設けられている(民法834条)。さらに,平成23年(2011年)の民法改正により,親権停止の審判制度が設けられた(民法834条の2)。加えると,民法には,管理権喪失の審判制度も設けられている(民法835条)。
仮に裁判離婚の後,未成年者子について単独親権者を定めるのではなく,離婚後も両親による共同親権としたとしても,そのことにより親権者の一方の親権の行使について問題が生じる場合には,前段落で引用した民法834条,民法834条の2,民法835条に設けられた各制度を用いれば,その問題に対する段階的な対応は可能であるし,まさにそのために,これらの制度は設けられているのである。このような共同親権による問題への対応のための制度が民法により段階的に設けられているにもかかわらず,民法819条2項は,裁判離婚において,一方の親の未成年者子に対する親権を,全面的に失わせているのである。それは基本的人権や平等権に対する必要以上の制約であり,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反することは明白である。
イ さらに,上のアで引用した平成23年(2011年)の民法改正により親権停止の審判制度が設けられた(民法834条の2)際には,民法改正法の採択に際して,衆議院では「民法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議」が決議されており,その6項においては,「六 親権制度については、今日の家族を取り巻く状況、本法施行後の状況等を踏まえ、協議離婚制度の在り方、親権の一部制限制度の創設や懲戒権の在り方、離婚後の共同親権・共同監護の可能性を含め、その在り方全般について検討すること。」とされていた(甲14)。また,参議院法務委員会においても,やはり「民法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議」が決議されており,その7項においては,「七 親権制度については,今日の家族を取り巻く状況や本法施行後の状況等を踏まえ,懲戒権の在り方やその用語,離婚時の親権の決定方法,親権の一部制限の是非,離婚後の共同親権・共同監護の可能性など,多様な家族像を見据えた制度全般にわたる検討を進めていくこと。」とされていた(甲15)。
それらの決議の存在は,離婚後単独親権制度を定めた民法819条2項の合理性が失われていたことを示している。さらには,国会(国会議員)が,離婚後の共同親権制度への法改正の必要性を認識していたことを示している。
それらの点において,離婚後単独親権制度を定めた民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反することは明白である。
(5) 現行民法が819条2項のような裁判離婚後の単独親権制度を採用したのは,離婚後も共同親権とすると,未成年者子の親権行使のために,離婚した元配偶者と関わることで生じる不都合を避けたい,という親の都合を優先したものと言える。逆を言えば,両親の両方から保護され,両親の両方と交流したり接しながら未成年者子が成長するという,未成年者子の福祉や未成年者子の保護の側面を,民法819条2項は考慮していないのである。
ここで参考とされるべきなのが,最高裁大法廷平成27年12月16日判決(平成25年(オ)第1079号,女性の再婚禁止期間違憲訴訟)である(なお,この(5)においては,同判決を「最高裁大法廷平成27年判決」という。)。最高裁大法廷平成27年判決では,当時の民法733条1項の規定していた女性の再婚禁止期間(当時は6箇月)が違憲ではないか,が争点とされた。最高裁大法廷平成27年判決の前の先例であった最高裁平成7年12月5日判決は,女性の再婚禁止期間の目的について「父子関係の重複を回避し,父子関係をめぐる紛争を予防する」ことにある,と判示していた。それは,①父子関係の重複を回避し,かつ②父子関係をめぐる紛争を予防する,という意味で,②の父子関係をめぐる紛争が起きることは,子ではなく,親や家族にとって不都合だ,という側面を考慮に入れて,女性の再婚禁止期間として,嫡出推定規定の重複を避けるための100日だけでなく,それを超える6箇月の期間を設けることも許される,と判示したことを意味している(女性の再婚禁止期間が設けられた理由の1つとして,「嫡出推定が重複する期間だけでは,女性自身が妊娠に気付かない場合があり,また女性が妊娠していることが外見からは分からないから,紛争が生じる可能性があるために,幅を持たせて6箇月にした。」という説明がされている(久貴忠彦「再婚禁止期間をめぐって」ジュリスト981号(有斐閣,1991年)37頁(甲6))。
ところが,最高裁大法廷平成27年判決は,女性の再婚禁止期間の目的についての判示において,「父子関係の重複を回避し,もって父子関係をめぐる紛争を予防する」ことにある,と判示した。最高裁大法廷平成27年判決は,そこに「もって」という言葉を入れることで,父子関係の重複を回避することだけが女性の再婚禁止期間の目的であり,それは未成年者子の福祉や未成年者子の保護のために設けられた規定であって,それを超えて親や家族の不都合いう面を考慮に入れて女性の再婚禁止期間を長くすることは許されない,と判示したのである。
つまり最高裁大法廷平成27年判決は,「親子法は未成年者子の福祉や未成年者子の保護のためにあるのであり,親の不都合を防止するための制度ではない」ということを確認したことになる。
とすると,この最高裁大法廷平成27年判決の立場から民法819条2項を評価すると,裁判離婚をした夫婦について単独親権者を定める現行の民法819条2項は,明らかに離婚後の親の不都合(未成年者子の親権行使のために,離婚した元配偶者と関わることで生じる不都合)を防ぐための制度であり,その結果親権を失った親が未成年者子に対する保護権を行使することができなくなることや,親権を失った親と未成年者子がほとんど会えなくなることで生じる,未成年者子の福祉や未成年者子の保護について生じる「未成年者子の不利益」を考慮していないことことは明白である。
その意味で民法819条2項は,立法目的において「未成年者子の福祉や未成年者子の保護」という親子法の理念と矛盾し,かつ手段においても必要以上に親の未成年者子に対する親権を全面的に失わせ,親から未成年者子への保護権を否定し,親と未成年者子との交流を否定するものである。本来は夫婦関係の解消のための制度であるはずの離婚に際して,そのような親子間の断裂を生むことを憲法が容認しているはずがない。最高裁大法廷平成27年判決の立場から民法819条2項を評価すると,それが憲法14条1項や憲法24条2項に違反することは明白である。
(6) さらに,ドイツでは,かつては日本と同様に裁判離婚後は単独親権制度が採用されていたものの,1982年に連邦憲法裁判所において,離婚後の例外なき単独親権を定めたドイツ民法1671条4項1文の規定が,親の権利を定めたドイツ基本法6条2項1文の権利を侵害するとの判決が出された。同判決後,ドイツでは離婚後の例外なき単独親権は違憲となり,個別事例での対応が続いていたが,1998年に親子法改正法(1997年制定)が施行され,離婚後共同親権(共同配慮権)が法制化されたのである(大森貴弘「翻訳:ドイツ連邦憲法裁判所の離婚後単独親権違憲判決」常葉大学教育学部紀要<報告>第38号2017年12月409-425頁(甲7。訳者解説は甲7号証の425頁。))。ドイツ民法は,日本民法の母法であり,それについてのドイツ連邦裁判所の違憲判決とその後のドイツ民法の改正は,日本国憲法の解釈に影響を与える立法事実である。
最高裁大法廷平成27年12月16日判決(平成25年(オ)第1079号,女性の再婚禁止期間違憲訴訟)は,当時の民法733条で6箇月とされていた女性の再婚禁止期間の内,100日を超える部分を違憲とした理由を,外国法を引用した上で,次のように判示している。それは,諸外国の立法の動向が,日本国憲法の解釈に影響を与える立法事実であることを示している。
「また,かつては再婚禁止期間を定めていた諸外国が序々にこれを廃止する立法をする傾向にあり,ドイツにおいては1998年(平成10年)施行の「親子法改革法」により,フランスにおいては2005年(平成17年)施行の「離婚に関する2004年5月26日の法律」により,いずれも再婚禁止期間の制度を廃止するに至っており,世界的には再婚禁止期間を設けない国が多くなっていることも公知の事実である。それぞれの国において婚姻の解消や父子関係の確定等に係る制度が異なるものである以上,その一部である再婚禁止期間に係る諸外国の立法の動向は,我が国における再婚禁止期間の制度の評価に直ちに影響を及ぼすものとはいえないが,再婚をすることについての制約をできる限り少なくするという要請が高まっていることを示す事情の一つとなり得るものである。」
付言すると,上でも引用した,常葉大学教育学部紀要<報告>第38号2017年12月409-425頁大森貴弘「翻訳:ドイツ連邦憲法裁判所の離婚後単独親権違憲判決」の425頁(甲7)では,「現在では,ヨーロッパ全域,アメリカ合衆国,ロシア,中国,韓国等でも離婚後共同親権が導入されている。今や日本は先進国で離婚後単独親権を取る唯一の国となった。わが国はハーグ条約に批准した後も、子どもを連れ去った配偶者が継続性の原則により親権を得る「連れ去り得」と言われる司法実務が横行しており、基本的人権を顧みない裁判実務には抜本的な改革が必要である。」と指摘されている。この指摘を踏まえると,日本の民法819条2項が採用している裁判離婚後単独親権制度は,諸外国の立法の動向から取り残された存在であることは明らかである。
また,上で引用したように,ドイツでは1982年に連邦憲法裁判所が,「離婚後の例外なき単独親権」を定めたドイツ民法1671条4項1文の規定が,親の権利を定めたドイツ基本法6条2項1文の権利を侵害すると判示した。それは,親権や監護の意思と能力を有している者であっても共同親権者となることができないという意味で,基本的人権に対する必要以上の制約であることを理由として憲法に違反したものである。とすると,日本の民法819条2項も,「離婚後の例外なき単独親権」を定めており,親権や監護の意思と能力を有している者であっても,共同親権者となる方法がないという意味において,親の未成年者子に対する親権という基本的人権に対して,許される必要最低限度を超えた制限を加えた規定であることは明らかである。その意味において,民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
(7) ア さらに,日本が昭和54年(1979)年に批准した国際人権条約である市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)規約(B規約)の23条4項は,「この規約の締約国は,婚姻中及び婚姻の解消の際に,婚姻に係る配偶者の権利及び責任の平等を確保するため,適当な措置をとる。その解消の場合には,児童に対する必要な保護のため,措置がとられる。」と規定している。
また同条約26条は,「すべての者は,法律の前に平等であり,いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため,法律は,あらゆる差別を禁止し及び人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。」と規定している。
イ 同条約の23条4項第一文において,日本は,同条約の締約国として,「婚姻の解消の際に,婚姻に係る配偶者の権利及び責任の平等を確保するため,適当な措置をとる。」義務を負うことが規定されているのである。それに対して現在の民法819条2項は,裁判離婚後の単独親権制度を採用しており,それは同条約の23条4項第一文が「婚姻の解消の際に,婚姻に係る配偶者の権利及び責任平等を確保するため,適当な措置をとる。」と規定していることに反していることは明白である。
ウ また,同条約23条4項第二文は,「その解消の場合には,児童に対する必要な保護のため,措置がとられる。」と規定している。後で述べるように,現在大きな社会問題となっている児童虐待を防ぐ手段として,離婚後共同親権制度は有力な手段となる。それにもかかわらず,それを採用していない現在の民法819条2項は,この第二文にも違反している。
エ また同条約26条は法の下の平等を定めている。そして,裁判離婚において親の一方のみを親権者として定め,もう一方の親の未成年者子に対する親権を全て失わせる民法819条2項は,必要を超えた制限を,親権を失う者に加え,夫婦であった両親の間で,合理的な理由のない差別的取り扱いを行うものであり,同条約26条にも違反している。
オ 憲法98条2項は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に遵守することを必要とする。」と規定している。その解釈により,日本の国内法秩序において,日本が締約国となっている条約は法律よりも上位の効力を有することが認められている。
その結果,条約の規定と法律の規定が抵触する場合,条約の規定が優先して適用される。
カ(ア) そして,日本が締約国となっている条約の内容や,その条約機関から日本に対して出された法改正を求める勧告は,日本国憲法の解釈に影響を与える立法事実として存在している。
(イ) この点につき,現在最高裁に係属している平成30年(オ)第1608号事件及び平成30年(受)第1966号事件の第一審である神戸地裁平成29年11月29日判決(甲4)(第二審である大阪高裁平成30年8月30日判決も同判示部分を引用している(甲5号証6頁)。)は,日本が締約国となっている条約の内容や,その条約機関から日本に対して出された法改正を求める勧告が,日本国憲法の解釈に影響を与える立法事実として存在していることを,以下のように認めている(甲4号証32頁)。
「日本が締約国となっている条約・勧告の内容や諸外国における立法の内容が立法事実となり得ることは否定できない。」
キ これらの点からしても市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)規約(B規約)に違反している民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
(8) ア さらに,民法819条2項は,日本が平成6年(1994年)に批准した児童の権利に関する条約にも違反している。
イ 児童の権利に関する条約9条1項は「締約国は,児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。」と規定している。
それにも対して,民法819条2項は,裁判離婚に際して夫婦の一方を未成年者子の親権者と定め,その結果親権を失った親から分離される結果を容認している。そして単独親権者により,未成年者子が,親権を失った親の意思に反して連れ去られる事態を,しばしば生ぜしめている。それは,児童の権利に関する条約9条1項に違反することである。
ウ また児童の権利に関する条約9条3項は,「締約国は,児童の最善の利益に反する場合を除くほか,父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。」と規定している。
それに対して,民法819条2項により,離婚後に単独親権者となった後,親権を失った親と未成年者子との面会交流が,通常で月に1回,しかも数時間のみ認められ,さらにはその月に1回の面会交流の実施も,親権者となった親がその実施を拒むことなどにより,しばしば困難となる状況を生じさせている。それは,児童の権利に関する条約9条3項に違反することである。
エ また,児童の権利に関する条約18条1項は「締約国は,児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。」と規定している。
そして,民法819条2項の定める離婚後単独親権制度は,同条項の規定する「児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則」に違反していることは明らかである。なぜならば,離婚後単独親権制度は,児童の養育及び発達について父母の片方だけが責任を有する制度だからである。その点からしても,民法819条2項は,児童の権利に関する条約18条1項に違反している。
オ 上の(7)オでも述べたように,憲法98条2項は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に遵守することを必要とする。」と規定している。その解釈により,日本の国内法秩序において,日本が締約国となっている条約は法律よりも上位の効力を有することが認められている。
その結果,条約の規定と法律の規定が抵触する場合,条約の規定が優先して適用される。
カ そして,上の(7)カでも述べたように,日本が締約国となっている条約の内容や,その条約機関から日本に対して出された法改正を求める勧告は,日本国憲法の解釈に影響を与える立法事実として存在している(甲4号証32頁,甲5号証6頁)。
キ これらの点からしても,児童の権利に関する条約9条1項,同条3項及び18条1項に違反している民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
ク(ア) さらに,児童の権利に関する条約の条約機関である子どもの権利委員会は,平成31年(2019年)2月1日付で,日本政府に対して,「27.委員会は,締約国が,以下のことを目的として,十分な人的資源,技術的資源および財源に裏づけられたあらゆる必要な措置をとるよう勧告する。(b)子どもの最善の利益に合致する場合には(外国籍の親も含めて)子どもの共同監護権(shared custody of children)
を認める目的で,離婚後の親子関係について定めた法律を改正するとともに,非同居親との個人的関係および直接の接触を維持する子どもの権利が恒常的に行使できることを確保すること。」を求める勧告を出した(子どもの権利員会:総括所見:日本(第4~5回)27条(b)(甲8の1,甲8の2)。なお,英語の「custody」は「養育権,保護権,監督権,親権」を含む意味の言葉である(甲9の1,甲9の2,甲9の3)。)。
(イ) この勧告は,共同監護こそが,児童の最善の利益に合致し,また非同居親との個人的関係および直接の接触を維持する子どもの権利が恒常的に行使できることこそが,児童の最善の利益に合致していることを指摘している。
その意味において,この勧告は,日本に対して,民法819条2項を含む現行民法が離婚後単独親権制度を採用している点について,児童の共同監護権を認める目的で,離婚後共同親権制度を採用する法改正を行うことを求めるものである。
(ウ) なお,児童の権利に関する条約9条1項は,「締約国は,児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし,権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は,この限りでない。このような決定は,父母が児童を虐待し若しくは放置する場合又は父母が別居しており児童の居住地を決定しなければならない場合のような特定の場合において必要となることがある。」と規定し,さらに同条3項は,「締約国は,児童の最善の利益に反する場合を除くほか,父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。」と規定する。
また児童の権利に関する条約18条1項は,「締約国は,児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。父母又は場合により法定保護者は,児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有する。児童の最善の利益は,これらの者の基本的な関心事項となるものとする。」と規定する。
これらの規定は,児童の権利に関する条約においては,児童の養育を父母の共同で行うことを原則とし,例外的に分離されるのは児童の最善の利益のために必要な場合に限られるという立場を表明したものである。
すると,上で引用した児童の権利委員会の,平成31年(2019年)2月1日付日本政府に対する勧告(甲8の1,甲8の2)の27(b)において,「子どもの最善の利益に合致する場合には(外国籍の親も含めて)子どもの共同監護権を認める目的で,離婚後の親子関係について定めた法律を改正するとともに,非同居親との個人的関係および直接の接触を維持する子どもの権利が恒常的に行使できることを確保すること。」とされた趣旨は,「子どもの共同監護が子の利益に合致することが原則であり,単独監護は共同監護が子の利益に合致しない例外的な場合のみ認められる。ところが日本の法制度では,子どもの利益に合致する場合であっても(共同監護が子どもの利益に合致しない例外的な場合には該当しなくても)共同監護とすることができないものである。よって,日本に対して,共同監護が子どもの利益に合致する場合には(共同監護が子どもの利益に合致しない例外的な場合でない限り)原則どおり共同監護とすることができる法制度へと改正を行わなければならない。」という法改正を求めるものであることは明らかである。
その意味においても,この勧告は,日本に対して,民法819条2項を含む現行民法が離婚後単独親権制度を採用している点について,子供の共同監護権を認める目的で,離婚後共同親権制度を採用する法改正を行うことを求めるものである。
(エ) 上の(7)カでも述べたように,日本が締約国となっている条約の内容や,その条約機関から日本に対して出された法改正を求める勧告は,日本国憲法の解釈に影響を与える立法事実として存在している(甲4号証32頁,甲5号証6頁)。
その意味において,日本が批准している児童の権利に関する条約の条約機関である子どもの権利委員会が,日本に対して,民法819条2項を含む現行民法が離婚後単独親権制度を採用していることについて,児童の共同監護権を認める目的で,離婚後共同親権制度を採用する法改正を行うことを求める勧告を出したことは,日本国憲法の解釈に影響を与える立法事実である。
(オ) その結果,民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
(9)ア 加えると,民法819条2項は,日本が平成25年(2013年)に批准した,国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(以下「ハーグ条約」という。)にも違反している。
ハーグ条約は,国境を越えた子どもの不法な連れ去り(例:一方の親の同意なく子どもを元の居住国から出国させること)や留置(例:一方の親の同意を得て一時帰国後,約束の期限を過ぎても子どもを元の居住国に戻さないこと)をめぐる紛争に対応するための国際的な枠組みとして,子どもを元の居住国に返還するための手続や国境を越えた親子の面会交流の実現のための締約国間の協力等について定めた条約である。日本人と外国人の間の国際結婚・離婚に伴う子どもの連れ去り等に限らず,日本人同士の場合も対象となる。
ところが,日本がハーグ条約を批准した結果,外国から日本への子の連れ去りはハーグ条約によって禁止される一方で,日本で離婚して民法819条2項により未成年者子の親権者となった者が,日本国内で未成年者子を連れ去り,さらには外国へと未成年者子を連れ去ることが容認されてしまう結果が生じているのである。
つまり,民法819条2項は,ハーグ条約の理念そのものに反する結果を容認した規定なのである。
イ 上の(7)オでも述べたように,憲法98条2項は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に遵守することを必要とする。」と規定している。その解釈により,日本の国内法秩序において,日本が締約国となっている条約は法律よりも上位の効力を有することが認められている。
その結果,条約の規定と法律の規定が抵触する場合,条約の規定が優先して適用される。
ウ また,上の(7)カでも述べたように,日本が締約国となっている条約の内容や,その条約機関から日本に対して出された法改正を求める勧告は,日本国憲法の解釈に影響を与える立法事実として存在している(甲4号証32頁,甲5号証6頁)。
エ これらの点からしても,ハーグ条約の理念に違反している現在の民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
(10) さらに言えば,民法819条2項の裁判離婚後の単独親権制度の下において,非常に長期化することが多い離婚裁判において主たる争点となっているのが未成年者子の親権の争いである。逆に,民法819条2項につき裁判離婚後に共同親権制度とする法改正が行われた場合には,離婚裁判の長期化を防ぐことができる。そしてそれにより,長い期間両親が離婚裁判で争う姿を目の当たりにして,未成年者子が精神面での悪影響を強く受ける事態が生じ,その結果親子関係にも悪影響が及ぼされる事態を防ぐこともできる。
それは,民法819条2項が採用する離婚後単独親権制度が,本来離婚とは関係がないはずの親子関係に対して,不必要な悪影響を与えていることを意味している。その点からしても,合理性が認められない民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
(11) そして,現在の民法819条2項の下で未成年者子の親権が争われた場合,実際に未成年者子を養育している親が親権者となることが極めて多い。その実務の立場が,結果として,離婚を考えている親が未成年者子を連れ去り,別居するという事態を多数生んでいる。それは形式的には,共同親権者の一方の同意を得ない子の連れ去りであるにもかかわらず,現在の実務ではその連れ去りは容認され,逆にその連れ去りから子を取り戻そうとする一方の親の行為が違法とされてしまう事態を生む結果となっている。
民法819条2項が,共同親権下にある未成年者子について,一方の共同親権者の同意をえない連れ去りを生んでいることは,民法819条2項の憲法適合性を否定する重要な事実である。民法818条3項が未成年者子に対する共同親権を保障しているにも関わらず,その規定の存在を無にする事態を民法819条2項が生んでいるのであり,そのような民法819条2項に合理性が認められるはずがないのである。
その意味においても,民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
(12) 付言するならば,現在大きな社会問題となっている児童虐待の問題を防ぐためには,裁判離婚後に単独親権制度が採用されるのではなく,共同親権制度こそが採用されなければならないことは明らかである。なぜならば,児童虐待は,両親から行われる場合よりも,離婚後単独親権者となった片親や,離婚後単独親権者となった片親が再婚をして,その再婚相手から未成年者子に対して行われる場合の方が多いことが,報告で明らかとなっているからである(中澤香織「家族構成の変動と家族関係が子ども虐待へ与える影響」『厚生の指標』59巻5号(甲10)は,平成15年度に北海道内すべての児童相談所において受理された虐待相談件数のうち,5歳,10歳,14・15歳の129例を対象とし,各児童相談所を訪問した研究班メンバーが児童票から必要事項を転記するという方法で行い,個人情報保護が可能な形に整理できた119例を分析したものである。その22頁に掲載されている「表2家族類型別の主な虐待者」においては,虐待総数119件の内,ステップファミリー29件(内継父実母24件,実父継母5件),父子3件,母子49件とされており,その合計件数が,実父母家族における虐待件数33件を大きく上回っていることが分かる。平成30年3月に東京都目黒区で,5歳の船戸ゆあ結愛ちゃんが児童虐待により死亡した事件も,離婚後単独親権者となった親が,再婚をして,その再婚相手から未成年者子に対して児童虐待が行われたものであった(平成30年(2018年)7月15日付読売新聞の記事(甲11号証の2枚目))。)。それは,民法819条2項が,一方の親の親権を完全に失わせることで,未成年者子に対する保護権を行使できなくしているからである。
日本の社会で現在大きな社会問題となっている児童虐待が,離婚後単独親権の結果生じることが多いこと,その防止のためには,離婚後も未成年者子に対する共同親権を維持することが求められることは,当然民法819条2項の憲法適合性を否定する重要な事実である。
離婚後も未成年者子に対する共同親権を維持することが,離婚後単独親権制度による児童虐待の発生を防ぐ手段となるのである。その手段を一切奪ってしまっている現在の民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
(13) ア この点につき,政府は離婚後単独親権制度から離婚後共同親権制度への法改正を検討している。それは,民法819条2項の憲法適合性の評価において,極めて重要な事実である。
まず,平成30年(2018年)7月15日付読売新聞の記事では,その政府の法改正の検討について,以下のように報じている(甲11)。
「離婚後も「共同親権」検討
政府 面会促し健全育成
政府が,離婚後に父母のいずれか一方が親権を持つ「単独親権」制度の見直しを検討していることがわかった。離婚後も双方に親権が残る「共同親権」を選べる制度の導入が浮上している。父母とも子育てに責任を持ち,親子の面会交流を促すことで,子どもの健全な育成を目指す。
法務省は親権制度を見直す民法改正について,2019年にも法制審議会(法相の諮問機関)に諮問する見通しである。
1896年(明治29年)制定の民法は,家制度を色濃く反映している。親権が子どもに対する支配権のように誤解され,児童虐待につながっているとの指摘もある。親権は2012年施行の改正民法で「子の利益のため」と明記されており,政府はこの観点から更なる法改正に着手する方向である。
離婚後の単独親権は民法819条に規定があり,どちらかの親は戸籍上の他人となる。親権者は子どもの教育や財産管理などの権利と義務を持つが,親権のない親はほとんど子育てに関われず,面会交流も著しく制限されるのが実情だ。・・
親子関係の断絶は,子どもからのSOSの見逃しにもつながりかねない。東京都目黒区で3月,5歳の船戸ゆあ結愛ちゃんが死亡した事件で,結愛ちゃんは親権を持つ実母や再婚した父親から虐待を受け,実母に「パパ,ママいらん」「前のパパがいい」と訴えていた。
実父が共同親権を持っていても結愛ちゃんの命を救えたかどうかはわからないが,面会交流の機会があれば,子どもの「孤立」を回避できた可能性はある。
共同親権を採用する欧米諸国では,元夫婦が養育費や定期的な面会交流のルールを決め,離婚後も共同で子育てをするのが一般的だ。子どもは両親から愛情を受ける方が心身ともに健康に育つという科学的知見があるとされるほか,養育費の支払いがスムーズになる利点も期待できる。」
イ この読売新聞の記事(甲11)で指摘されているように,現在の離婚後単独親権制度について,政府により離婚後共同親権制度への法改正の検討が行われているのである。それは,離婚後単独親権制度について,合理性が失われていることを如実に示している。
そして,この読売新聞の記事(甲11)でも指摘されているが,1896年(明治29年)制定の民法は,家制度を色濃く反映している。上の(5)でも主張したように,最高裁大法廷平成27年12月16日判決(平成25年(オ)第1079号,女性の再婚禁止期間違憲訴訟)は,親子についての家族法が,かつてのような家や親のためにあるのではなく,未成年者子の保護や未成年者子の福祉のためにあることを明確にした。判例や家族法制の変遷は,親子についての法律制度が,家のための法律制度から親のための法律制度へ変化した後,さらに現在では子のための法律制度へと変化していることを示している。その意味でも,離婚後単独親権制度を定めた民法819条2項は,親権制度を家や親のものとされていた色彩が残る制度であり,合理性は認められないのである。
さらに,これも読売新聞の記事(甲11)で指摘されていることであるが,親権が子供に対する支配権のように誤解され,児童虐待につながっているとの指摘がされているのである。
上の(12)でも主張したが,子供の虐待死が発生する原因の1つに,離婚後単独親権制度があるとの報告がされている(甲10)。離婚により親の一方が未成年者子に対する親権を全面的に奪われるため,未成年者子に対する保護権を行使できず,子供に対する虐待を防ぐ手段がないからである。親権が子供に対する支配権のような誤解を生み,さらには児童虐待を生んでいる民法819条2項に,合理性が認められないことは明白である。
ちなみに,国家の三権分立制度は,国家権限を1つに集中させると,必ず弊害が生じるという人類の経験と理念に基づくものである。親権制度も同様であり,世界中のほとんどの国が離婚後共同親権制度を採用していることは,両親による共同親権こそが未成年者子の利益を生むという,人類の経験と理念に基づいている結果なのである。すると,親の一方の親権を失わせることは,未成年者子の利益に対して弊害が生じる可能性が高まることは明白である。
また,これも読売新聞の記事(甲11)で指摘されているが,親権の行使については,平成24年(2012年)施行の改正民法で「子の利益のため」と明記がされた(民法820条「親権を行う者は,子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負う。」,民法766条1項「父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者,父又は母と子との面会及びその他の交流,子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」)。民法において,親権の行使について「子の利益のため」と明記されたのであるから,子に不利益を及ぼす離婚後単独親権制度(民法819条2項)には,何ら合理性がないことは明白である。
さらに,読売新聞の記事(甲11)の2枚目で,共同親権による弊害が生じる場合を念頭において,「このため政府は,共同親権を導入した場合でも,単独親権を選択できる余地を残す方向で検討を進めている。」と記載されていることからも明らかなように,政府が検討しているのは共同親権が原則であり,単独親権が例外の制度である。その点からしても,例外なく離婚後単独親権としている民法819条2項に,合理性が認められないことは明白である。
ウ 政府により,民法819条2項の離婚後単独親権制度から,離婚後共同親権制度への法改正の検討が行われることは,憲法解釈に影響を与える重要な立法事実である。その結果,民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
(14) ア 平成31年(2019年)2月17日付の日本経済新聞の記事において,法務省が選択的共同親権制度の導入の本格的な検討に入ったことが明らかになった(甲12)。以下の記事である。
「法務省は離婚後に父母の双方に親権が残る「共同親権」制度の導入の本格的な検討に入った。現在の民法は父母のいずれか一方が離婚後の親権を持つ「単独親権」を規定しているが,共同親権も選べるようにし,両方の親が子育てに関わりやすくするのが狙い。欧米の多くで採用している選択制による共同親権の導入を検討する方向だ。
日本は先進国でも例外的に単独親権を採用している。現行制度では親権を持たない親は戸籍上の他人となり,子どもとの面会交流が大きく制限される。ただ,近年の離婚の増加による親権争いで,子どもを相手親に知らせず連れ去ったり,相手親による虚偽のドメスティックバイオレンス(DV)を弁護士や行政機関に訴えるなどの事例が社会問題化している。
こうした問題を踏まえ,法務省は別居親と子どもとの面会交流を積極的に実現し,親子間の完全な断絶を防ぐことで子どもの養育環境を整えるため,共同親権の本格導入の検討に入った。
共同親権の考え方は,「子の利益」を重視する点にある。日本では養育費や面会交流の方法などを合意せずに離婚することができるため,「子どもの福祉に反する」との意見がある。離婚後も父母の双方が子どもの監護・教育の責任を追うべきだとの考えで,欧米などの国々ではこうした価値観に基づき,父母の双方が離婚後も共同で親権を持つのが主流だ。
日本では親権は「親の子どもに対する権利」と考えられがちだが,欧米では「子どもを監護・養育する義務」と捉えており,両親が親権を持つのは当然との考え方が支配的だ。離婚後も,一方の親が面会交流や養育費の支払いを拒むと違法行為に問われる。・・」
イ 法務省が,民法819条2項の離婚後単独親権制度から,離婚後共同親権制度への法改正を本格的な検討に入ったことは,この日本経済新聞の記事(甲12)でも指摘されているように,近年の離婚の増加による親権争いで,子供を相手親に知らせず連れ去ったり,相手親による虚偽のドメスティックバイオレンス(DV)を弁護士や行政機関に訴えるなどの事例が社会問題化していることなどからすると,民法819条2項に合理性がないことは明白である。
また,この日本経済新聞の記事(甲12)の2枚目で,共同親権による弊害が生じる場合を念頭において,「このため,共同親権を導入した場合でも,養育環境を慎重に考慮し,ケースによっては単独親権を選択することもできるよう検討する。」と記載されていることからも明らかなように,法務省が検討しているのは共同親権が原則であり,単独親権が例外の制度である。その点からしても,例外なく離婚後単独親権とする民法819条2項に,合理性が認められないことは明白である。
ウ 法務省が,民法819条2項の離婚後単独親権制度から,離婚後共同親権制度への法改正を本格的な検討に入ったことは,憲法解釈に影響を与える重要な立法事実である。その結果,民法819条2項は,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
(15) ア 以下で引用する,平成31年(2019年)2月26日付の日本経済新聞の記事で記載されているように,同月25日の国会衆議院予算委員会の審議において,安倍晋三首相が,離婚後共同親権制度の導入について,「民法を所管する法務省で引き続き検討させたい。」との答弁を行った(甲13)。
「「子どもの気持ち理解」 首相,共同親権めぐり安倍晋三首相は25日の衆院予算委員会で,現在の民法は認めていない離婚後に父母の双方に親権が残る「共同親権」について「もっともだという気もする。子どもはお父さんにもお母さんにも会いたい気持ちだろうと理解できる」と語った。「民法を所管する法務省で引き続き検討させたい」と述べた。日本維新の会の串田誠一氏への答弁。
共同親権を巡っては法務省が選択制による導入の可能性を検討している。現在の民法は父母のいずれか一方が離婚後の親権を持つ「単独親権」を規定している。
別居親と子どもの面会交流を積極的に実現して子どもの養育環境を整えるため,共同親権を選べるようにすべきだとの意見が出ている。」
イ 安倍晋三首相が,離婚後単独親権制度から,離婚後共同親権制度への法改正について,「もっともだという気もする。子どもはお父さんにもお母さんにも会いたい気持ちだろうと理解できる」と語り,「民法を所管する法務省で引き続き検討させたい」と述べたことは,民法819条2項には合理性がないことを如実に示している。
ウ その安倍晋三首相の発言は,憲法解釈に影響を与える重要な立法事実である。その結果,民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
(16) ア 民法819条2項は,親の未成年者子に対する親権を奪うと同時に,未成年者子の基本的人権・人格的利益・利益を侵害するものである。原告はこの訴状において,民法819条2項が規定する離婚後単独親権制度が,未成年者子の基本的人権・人格的利益・利益を侵害する側面においても,憲法14条1項,憲法24条2項及び児童の権利条約に違反していることを主張する(「第三者の所有物を没収する場合において,その没収に関して当該所有者に対し,何ら告知,弁解,防御の機会を与えることなく,その所有権を奪うことは,憲法の容認しないところである。かかる没収の言渡しを受けた被告人は,たとえ第三者の所有物に関する場合であっても,被告人に対する付加刑である以上,没収の裁判の違憲を理由として上告をなし得ることは当然である。」と判示した最高裁大法廷昭和37年11月28日判決参照。)。
イ 民法819条2項が規定する離婚後単独親権制度は,未成年者子の権利の観点からすると,「両親の共同親権の下で養育される権利」を奪うものである。それは,両親の離婚という未成年者子の意思に関わらない事情によって,自らの養育(子育て)に責任をもつ親権者を,強制的に一人失わせることになる制度である。さらに未成年者子は,「成人するまで,両親と同様に触れあいながら精神的に成長する権利」をも奪われることを意味している。
未成年者子も,1人の人間として,基本的人権を有している。そして未成年者子は,憲法13条により幸福追求権や人格権を有している。民法819条2項の離婚後単独親権制度は,未成年者子の幸福追求権や人格権を,「2人の親権者の内1人を奪う」という意味において,侵害するものである。
また未成年者子も,1人の人間として,憲法14条1項により平等権が保障されている。民法819条2項の離婚後単独親権制度は,親が離婚していない未成年者子に対して,親が離婚した未成年者子について,「2人の親権者の内1人を奪う」という意味において,合理的な理由なく差別した規定である。
さらに憲法24条2項は,「離婚並びに結婚及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳に立脚して,制定されなければならない。」と規定している。民法819条2項の離婚後単独親権制度は,親の離婚という「子が自ら選び,正せない事柄」を理由に未成年者子に対して「2人の親権者の内1人を奪う」という不利益を及ぼすものであり,家族に関する法律について「法律は,個人の尊厳に立脚して,制定されなければならない。」と規定した憲法24条2項に違反するものである。
ウ (ア) 児童の権利に関する条約は,児童の権利を中心として構成され,児童の権利を保護する立法を日本に対して求めている。とすると,民法819条2項の児童の権利条約適合性の評価も,児童の権利の保護の観点から,行われなければならないことは当然である。
(イ) 児童の権利に関する条約9条1項は「締約国は,児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。」と規定している。
民法819条2項が定める離婚後単独親権制度は,児童の権利に関する条約9条1項が保護する児童の「その父母の意思に反してその父母から分離されない」権利を侵害するものである。民法819条2項により,裁判離婚に際して夫婦の一方を未成年者子の親権者と定め,その結果親権を失った親から分離される結果が容認されているからである。そして単独親権者により,未成年者子が,親権を失った親の意思に反して連れ去られる事態が,しばしば生ぜしめられているからである。
(ウ) また,児童の権利に関する条約9条3項は,「締約国は,児童の最善の利益に反する場合を除くほか,父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。」と規定している。
民法819条2項が定める離婚後単独親権制度は,児童の権利に関する条約9条3項が保護する児童の「頻繁で継続的な親子の交流」の権利を侵害するものである。民法819条2項により,離婚後単独親となった後,親権を失った親と未成年者子との面会交流が,通常で月に1回であり,さらにはその月に1回の面会交流の実施も,親権者となった親がその実施を拒むことなどにより,しばしば困難となる状況を生じさせているからである。
(エ) また,児童の権利に関する条約18条1項は「締約国は,児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。」と規定している。
そして,民法819条2項の定める離婚後単独親権制度は,同条項の規定する「児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則」に違反していることは明白である。なぜならば,離婚後単独親権制度は,未成年者子側からすると,父母による共同の児童の養育及び発達についての責任を奪う制度だからである。その点からしても,民法819条2項は,児童の権利に関する条約18条1項に違反している。
(オ) 上でも述べたように,憲法98条2項は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に遵守することを必要とする。」と規定している。その解釈により,日本の国内法秩序において,日本が締結した条約は法律よりも上位の効力を有することが認められている。
その結果,条約の規定と法律の規定が抵触する場合,条約の規定が優先して適用される。
(カ) また,上の(7)カでも述べたように,日本が締約国となっている条約の内容や,その条約機関から日本に対して出された法改正を求める勧告は,日本国憲法の解釈に影響を与える立法事実として存在している(甲4号証32頁,甲5号証6頁)。
(キ) それらの点からしても,児童の権利に関する条約9条1項,同条3項及び18条1項に違反している民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反することは明白である。
エ さらに,当時の民法900条4号但書が,非嫡出子の相続分を,嫡出子の相続分の半分としていた規定について,憲法14条1項の法の下の平等に違反すると判示した最高裁大法廷平成25年9月4日決定の立場からすると,離婚後単独親権制度を定めた民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
最高裁大法廷平成25年9月4日決定は,「子が自ら選び,正せない事柄を理由に不利益を及ぼすことは許されない,との考えが確立されてきていること。」等を理由として,当時の民法900条4号但書を,憲法14条1項に違反する,と判断した判例である。
本件訴訟において憲法適合性が問われている民法819条2項も,未成年者子が自ら選び,正せない事柄である,親の離婚という事実により,一方の親の親権を全面的に奪い,その親から未成年者子に対する保護権の行使を否定し,さらにその親と触れあいながら成長する機会を否定している。それは,「子が自ら選び,正せない事柄を理由に不利益を及ぼすこと」である。そしてそれは,児童の権利に関する条約が,児童の権利や福祉を保護する立法を日本に対して求めていることと完全に矛盾している。
その意味で,最高裁大法廷平成25年9月4日決定が「子が自ら選び,正せない事柄を理由に不利益を及ぼすことは許されない,との考えが確立されてきていること。」などと判示した立場からすると,民法819条2項が,憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。

4 民法819条2項についての国会(国会議員)の立法不作為が国家賠償法上違法であること(本件違法行為)
(1) 最高裁大法廷平成17年9月14日判決は,国会(国会議員)の立法不作為が国家賠償法上違法となる場合を2つ判示している(下線は原告による記載である。)。
「国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら,立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁は,以上と異なる趣旨をいうものではない。」
(2) さらに,最高裁大法廷平成27年12月16日判決(平成25年(オ)第1079号,女性の再婚禁止期間違憲訴訟)は,国会(国会議員)の立法不作為が国家賠償法上違法となる場合について,以下のように判示している。
「法律の規定が憲法上保障され又は保障されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁参照)。」
(3) 上の3項で指摘したように,民法819条2項が憲法14条1項及び憲法24条2項に違反していることは明白である。
それにもかかわらず,国会(国会議員)が立法措置を執らないことは,最高裁平成17年9月14日大法廷判決が判示した「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合・・であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合」に該当する。
またそれは,最高裁平成27年12月16日大法廷判決(平成25年(オ)第1079号,女性の再婚禁止期間違憲訴訟)が判示した「法律の規定が憲法上保障され又は保障されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合」に該当する。
(3) 国会(国会議員)による立法不作為は,漫然と行われた違法なものである。

5 原告の損害
(1) 原告は,本件違法行為により,長男と二男の親権を失い,多大な精神的苦痛を被った。
原告の被った精神的苦痛を金銭に換算すると,少なく見積もっても金150万円は下らない。
(2) さらに原告は,本件訴訟の提訴のために,法律の専門家である弁護士に依頼せざるをえなかった。原告の費やした弁護士費用の内,金15万円が本件違法行為と相当因果関係にある損害である。
(3) その結果,原告が本件違法行為により受けた損害は,(1)と(2)の合計金165万円である。

6 結論
よって原告は,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償金165万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

附属書類
1 訴状副本 1通
2 甲号証写し 各1通
3 訴訟委任状 1通